ルーシーが、F公園で他のワンちゃんと喧嘩した。喧嘩といっても、すぐに収まったのだけど、一瞬ルーシーが本気モードに入った。相手のワンちゃんは月齢こそルーシーと変わらないけれど、コーギーなので体格には差がある。二匹を引き離したところ、すぐにルーシーは落ち着いたのだが、(あ)には少し驚きだった。
 ルーシーは相手に挑まれると、今までは自分から尻尾を巻いて逃げていた。吠えられたり、歯をカチカチ鳴らされて威嚇をされると、自分から「失礼しました〜」とばかりに視線を逸らせ体を震わせて、何もなかったかもように、その場を離れる。そして威嚇された相手に再度出会っても、少し遠慮がちに遠巻きにウロウロと歩き回って、相手に近づこうとしない。「意外に気が小さいのね」と、(あ)は内心ホッとしていた。
 犬は、権勢欲が強く順位を決めたがる動物ではあるけれど、意外と平和主義のワンちゃんは多い。危険回避モードが組み込まれているのだろう。自分の周囲に仲が悪そうな犬がいることを発見するや、別の方向へと歩き出すワンちゃんも多いのだ。それでも雄など、権勢欲の強い犬は喧嘩を繰り返す。
 今回の相手は、ルーシーが公園に初めて行った頃から、ルーシーのことを目の敵にしていた。おそらく先輩、後輩の意識が強いのだろう。相手に威嚇される度に、ルーシーは自分から相手に近づかないようにしていた。
 今日ばかりは、このワンちゃんが、避妊手術を終えて久しぶりに公園にやってきたせいもあり、非常に興奮していた。このワンちゃんの飼い主さんも(あ)も、二匹の相性が良くないことは知っていたから、(あ)はルーシーを連れて、充分に距離を置いたところで、オモチャを投げて遊んでいた。ルーシー自身もオモチャに集中していたし、二匹の接近はないものと安心していた。
 ところが、相手のワンちゃんがオモチャに興味を持ったらしく、(あ)に近づいてきてしまったのだ。「もう遊ばないの?」とルーシーが(あ)に近づく。遊びの間安心していた(あ)はルーシーのリードを離して、芝生の上を走らせていた。小走りで自分の方向にやって来たルーシーを見て、相手は「来るな!」と威嚇した。その瞬間、ルーシーが逆ギレした。上からのし掛かるように、相手に突っかかっていった。
 ルーシーにしたら、自分が楽しく遊んでいるものを取られると思ったのかもしれない。食べ物以外には執着しない性格だったのに、少しずつ独占欲が芽生えているようだ。
 二匹ともケガはなかったので、これも「ちょっとした衝突」と言えるかもしれない。それでも、ルーシーも成長に合わせて、性格も少しずつ変わってきているようだ。昨日までは大丈夫でも、明日は違うかもしれない。そのことを頭のどこかに留めておかないといけないなぁ。