サンタちゃん

 サンタちゃんは、プードルの男の子。クリスマスに生まれたそうだ。いつもお母さんがF公園に連れてこられて、ボール遊びをしている。乱暴者のルーシーとは対照的に、非常に優しく、おとなしいワンちゃんである。
 ご自宅では、それなりにイタズラもするそうだが、それでも公園では「賢いワンちゃん代表」の一匹だ。(あ)は、お二人の姿を見るたびに、「自分とルーシーがいつかこんな風になれるだろうか」と考え、「あり得ないなぁ」とタメイキをつく。
 ルーシーは、サンタちゃんのお母さんを見ると、リードをグイグイ引っ張って、甘えに行く。フリスビーを取り落として、走っていってしまうこともしばしば。幼犬の頃から美味しい手作りのおやつをいただき、可愛がってもらっているので、ルーシーはサンタちゃんのお母さんを見ると、黙って見過ごす訳にはいかないようだ。
 いつもいただいてばかりなので、時々(あ)もサンタちゃんにおやつをあげることがある。どうやらサンタちゃんも覚えてくれたようで、(あ)の姿を見ると、駆け寄って挨拶に来てくれるようになった。
 今日は、雨で公園を訪れるワンちゃんも少なかったので、サンタちゃんは(あ)を見ると、すぐに走ってきてくれた。そして、言われなくても(あ)の前で黙ってお座りをする。その横で、ルーシーはと言えば、リードを引っ張り首が締まっているはずなのに、後ろ足で立ち上がり前足を空中にばたつかせて、遊泳中の宇宙飛行士みたいな格好で、サンタちゃんのお母さんに飛びつこうとしている。この差は一体何なんだ?
 何回か、互いのワンちゃんにおやつをあげていると、お母さんがサンタちゃんに「もう、おしまい」と注意をした。ところが、サンタちゃんは声や態度ではなく、目で(あ)に「もう少しちょうだい」と訴え続けた。賢い彼は、ルーシーのように、決して、乱暴な態度をとったり要求吠えをしたりということがない。しかし、お母さんは今日に限って、厳しくサンタちゃんを叱った。
 声を上げて怒るお母さんの前に、きちんと座りながら、サンタちゃんはただ黙っている。そして「ダメでしょ!お尻ペンするよ」と言われたその時、サンタちゃんは、おもむろに右の前脚をお母さんの方に差し出した。どうやら「まぁまぁ、そんなに怒らないで」ということらしい。
 これがルーシーなら、目で訴えたくらいでは、まず(あ)に怒られることはないし、もしも怒られたとしても、その最中は反省したそぶりを見せるかもしれないけれど、次の瞬間にはすっかり忘れて同じことをしているだろう。うーん、レベルが違いすぎるなぁ。