サトリ

 我が家には妖怪が一匹棲んでいる。その名は「妖怪サトリ」だ。
 先週は雨続きで、ようやく晴れた土曜日、(あ)は青い空を眺めていた。洗濯+布団干しをしておこうか?しかし、こんな天気は続かないから、ルーシーを連れて外出した方が良いのかなぁ?すると玄関先から「ワン!」と声がした。
 ルーシーが我が家に来た当初から、(あ)が、掃除用具の入った扉を開けると、それを見ていたルーシーは「掃除か〜、かまってくれへんのやったら、しばらく寝てよ」とひっくり返っていた。(あ)が散歩用の帽子やジャケットをつけた姿を見ると、「ほな行こか〜」と立ち上がる。目で見たことから、これから何が起こるのかを分かるようにまで、それほど時間はかからなかった。Tシャツやジェントル・リーダーを見た途端、廊下の隅に体を小さくして「アタシは居ませんぜ」と逃げる。目の前におるっちゅーに。何かと直ぐに覚えて、反応するようになっていた。
 そのうち、自分からは見えないものでも、日焼け止めの容器を振るカチャカチャという音、ジャケットのジッパーを閉める音、鍵のチャラチャラという音、フード用ステンレス製の容器や量りを流し台に置く音などに、ルーシーは敏感に反応するようになった。それまでグースカ寝ていても、これらの音を聞くやムクリと立ち上がり、ウロウロと歩き回る。それでも何も起こらないと、「早よして」とばかりに吠える。電話やファックスの受信音がしたら「なんやー、お母さんも仕事か〜、機嫌が悪いやろうから静かにしとこ」と、おとなしくしている。
 しかし、こちらが何もせず考えただけでも、分かってしまうことが多くなった。土曜日については、(た)が家に居る週末は車で出かける可能性は高いので、ルーシーも「お出かけ探知レーダー」の感度を高めていたのだろうけど。今朝の散歩から帰宅後、玄関でルーシーの足を拭きながら、(あ)は「そろそろシャンプーしないといかんかなぁ?今週の天気はどうだったっけ?」と考えていた。するとルーシーは、それまで(あ)の腕の中でウトウトしていたのに、急に顔をこちらに向け、(あ)の手をしつこいくらいに舐めた。見ると、ナーバスな表情を浮かべて「お母さん、シャンプーだけは勘弁して」と言いたげだ。
 なんでバレたんだろ?やっぱり妖怪サトリなのかしら?