ルイちゃんとお父さん

 黒ラブのルイちゃんにF公園で会うと、いつしかルーシーよりも先に(あ)のところに来てくれるようになった。いつも遊んでくれるお礼におやつを渡していたら、(あ)を「おやつ袋」と認識するようになったようだ。実際、腰につけているウェスト・ポーチには、他のワンちゃんにあげるおやつと、ルーシーの夜ご飯の一部であるドッグフードを入れている。鼻の利くラブちゃんのことだから、自分のおやつを食べ終えて、(あ)が「もうおしまい」と言っても、「まだ、その中にあるじゃん。ケチ」と思っているのだろう。
 F公園には、もう一人「おやつ袋」がおられる。サンタちゃんのお母さんだ。いつも手作りのおやつを持参されているので、多くのワンちゃんが、サンタちゃんのお母さんの姿を見かけると、急いで近づいていく。
 だからルイちゃんが、お父さんの呼びかけを振り切って、サンタちゃんのお母さんに向かって行くのは当然だ。ただ相手が遠い場所にいても、すぐに見つけてしまうところが、他のワンちゃんと違うけど。
 今日も、ルイちゃんが、お父さんから離れて、サンタちゃんのお母さんのところに走って行ってしまった。お父さんは、わざとトイレの壁の向こう側に、姿を隠してしまった。おやつをもらって戻ってきたら、お父さんがいない。ルイちゃんは必死になって、芝生の広場を走り回り、お父さんを捜す。ここら辺がルーシーと全く違うところだ。ルーシーなら「お母さん、いないのかぁ。まぁ良いや」と思うに違いない。
 他の飼い主さんたちは、ルイちゃんの不安をあおるように「お父さん、いなくなっちゃったよ。」「あ〜あ」「ルイ、迷子になっちゃったの?一緒に帰ろうか」と口々に話しかける。それを聞いたルイちゃんの表情は。ますます暗くなった。しばらく探し回って、ようやくお父さんが姿を見せると、いつもの笑顔が戻ってきた。良かったね、ルイちゃん。
 ちなみに、ルーシーにとって、ルイちゃんのお父さんは大好きな人だが、素直に甘えられない相手である。というのも、ルイちゃんのお父さんは、犬のしつけに精通されており、犬の気持ちをよく理解しておられる。つまり妖怪サトリが悟られてしまう怖い相手なのだ。今日もお父さんが「コラ、ルーシー」と声をかけられると、ルーシーはさっと伏せて見せた。ルーシーが、エサなしで、こういう態度をとるのは非常に珍しい。お父さんがルーシーに近づくと、ルーシーは下からお父さんに甘えてゴマをすってみせた。ルイちゃんのお父さんは、こんなルーシーの態度を見て、笑いながら「お家で『コラ』って怒ってらっしゃいますね」と仰った。
 ぎゃっ、一瞬で家での様子まで知られてしまった。恥ずかしー。