捨てる神あれば

 「○○はルーシーが嫌いだから」ある飼い主さんに言われた一言が、頭から離れない。
 犬同士の相性が悪い、仲が悪いことはよくあることだ。大体の場合、吠えたり、噛みつこうとしたり、態度で「オマエなんか嫌いだ」「あっちへ行け」と示す。ただし、このワンちゃんは別だ。特殊な訓練を受けていたため、ルーシーが側に行っても、威嚇したり牽制したりはしない。単に無視を決め込んでいる。
 そのせいか、ルーシーは自分が嫌われていることに全く気がついていない。それどころか本人は熱烈なラブコールを送っていて、姿を見るや駆け寄ろうとする。呼び戻しをしても戻って来ないこともしばしばだ。そして「遊ぼうよ」と彼女なりの方法でアピールする。
 いっそのこと相手にガブッと噛んでもらったり、吠えてもらえたら、話は簡単なのだ。ルーシーは基本的にフレンドリーで、飼い主の命令はともかく、犬同士のルールには従う。以前に威嚇されたワンちゃんのことはよく覚えていて、今でも散歩の途中で出会うと、遠巻きに様子を窺って、なかなか近づこうとはしない。また、自分は尻尾を振って親愛の情を示しても、相手が吠えると「あ、私のことキライなの。じゃ、しょうがないなぁ」と、体を震わせてあきらめる。
 冒頭のワンちゃんについては、ルーシーがキライなのに、しつこく誘われて我慢しているとしたら、余計なフラストレーションを感じていることだろう。それは申し訳ない。だから、このワンちゃんの姿を見たら、ルーシーをリードにつなぎ、別の場所に移動するようにしている。ただ、そうする度に、こちらの気持ちが沈んでタメイキが出る。決してルーシーが悪い訳じゃないのに、いつまで、こんなことを続けないといけないのかなぁ。
 今日もタメイキをつきながらルーシーを移動させていると、向こうの方から「ルーシー!おいで!」という声が聞こえた。見れば、コーギーのクウちゃんのお母さんである。「今ね『ルーシーが来てくれたら、クウちゃんも走れるのに』って言ってたとこなのよ。」
 クウちゃんはコーギーとしては小柄だが、追いかけっこではルーシーに負けない。ルーシーも心得ているのか、自分ばかりが優勢になって上からのし掛かることなく、お腹を見せて遊んでいる。お互いが遊びを楽しんでいる。その姿を見ていたら、沈んでいた気持ちが少し明るくなった。
 クウちゃんのお母さん、声をかけていただいて、本当にありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。