あずまやのあるスペースは、ルーシーを走らせるには手狭だけれど、一緒に遊んでくれる友達がいることを考えれば、これ以上を望んではバチがあたる。コーギーのクーちゃんやバーニーズのマロくん、柴犬の小太郎君など、全員で群れになって走ったり、取っ組み合いの相手を変えたりして、楽しく遊んでいる。
 疲れたら腹這いになって水を飲み、他の飼い主さんからおやつをもらう。(あ)が観察するかぎり、ワンちゃん達は自分の飼い主さんより、友達の飼い主さんのところへ行くことが多い。自分の飼い主が持っているおやつは、家に帰ればもらえることを知っているのだろう。だから、食べたことのないおやつをもらえるチャンスを最大限に活かそうとしているようだ。いわば、ここは「バイキング・コーナー」みたいなものなのだ。
 催促の仕方はさまざまだ。「この人」と見込んだ飼い主さんの前に静かに座るお利口さんもいれば、周囲をウロウロ歩いて、おやつがもらえるまでつきまとう(ストーキングと言っても過言ではない)ルーシーみたいな図々しいヤツ、おやつの入った袋やポケットを鼻で嗅いだり上からベロリと舐めたりして、「ボク知ってんだー。おやつは、ここにあるんでしょ?」と持ち主の注目を誘い、その人の顔を見上げてニヤ〜と笑う子もいる。
 ただし共通しているのは、夢中で遊んでいる最中でも、食べ物となれば、非常に敏感に反応することだ。ビニール袋のガサガサという音、カバンのジッパーを開ける音、そして自分以外のワンちゃんが誰かから食べ物をもらっている気配に素早く反応する。他のワンちゃんが、誰かに向かってお座りをしている姿を視界に捕らえたら、取っ組み合いやボール遊びを中断してでも、その人の前に行く。ルーシーは、多くの場合、遊びに夢中で出遅れてしまい、その人の前には既に競争相手が多数並んでいて、自分のアピールがおやつの持ち主に通じないと判断するや、行儀良くおやつを待っている他のワンちゃんを押しのけて、その人に飛びつこうとする。今時、通勤電車でも、こんなに図々しいオバハンは見かけんぞ。
 これまで行儀良く待っていたのに、ルーシーに横入りをされてムッとした子は、背中からマウンティングをして「オマエ、あつかましいぞ!」と注意する。一方、ルーシーは、おやつをもらうのに夢中なのか、意に介していないようだ。
 彼らは、一回おやつをもらったら、二回目の催促をするにも、時間を置いた方が効果的であることも、知っている。もらった直後に「もっとー、もっとー」と催促するのは、アホなルーシーくらいなものだ。
 飼い主さん達は、他の家のワンちゃんでも、我が子同様に、いや、それ以上に優しく接してくださっている。決して邪険にしたり、意地悪をしたりしない。大体が必要以上におやつを持参しておられる。ただし、それぞれの方が来られる時間はマチマチで、おやつを期待してやって来る犬たちとしては、誰におやつをもらったのかを覚えなければならないはずだ。しかも、このスペースには進入路が三カ所ある。自分が気づかない間に、友達と飼い主さんが到着していたということも多いはずだ。つまりトランプの「神経衰弱」みたいなものだ。ゲームに勝つためには開いたカードの数と位置を正確に記憶しなければならないように、あずまや横のスペースでおやつを最大限ゲットするには、他の飼い主さんの顔と、自分が今日その人からおやつをもらったかどうかを覚える記憶力が必要なのだ。
 ルーシーは全くダメである。コイツは集中力も記憶力も、覚えようという意欲も欠如しているので、誰彼なしにおねだりをして回る。他の飼い主さんに「ルーシー、さっきあげたでしょ」と諭されても、「そうだっけ?いいじゃん、もっとちょうだい」と、しつこく催促する。ルイちゃんは、おやつを持参しているめぼしい相手(おそらく最大で5人)を覚えていて、スペースをゆっくりと歩き回って飼い主さんの顔を見る。そして「この人には、さっきもらったしー」「あ、あの人はまだだ」と判断しているようだ。賢い〜!
 一番凄いのはマロくんだ。マロくんは、自分があずまやから他の場所に遠征して帰ってきても、戻ってきた瞬間に「あ、○○ちゃんのお母さんだ!おやつ頂戴〜!!」と、まだ自分がおやつをもらっていない飼い主さんを見つけて、嬉しそうに走っていく。どうして、マロくんには、この飼い主さんが後から来たと分かるのだろうか?謎である。
 マロくんが大きな体を揺すりながら走る姿を見ると、(あ)は暴れん坊将軍のオープニングで松平健を乗せて疾走する白馬を思い出す。また、クーちゃんのお兄ちゃんには「ポニー」と呼ばれているそうだ。