番犬入門

 昨日は通夜があったので、(た)は、いつもより随分早い時間に帰宅した。玄関を入ろうとした時、ルーシーは玄関のたたきにいた。散歩から帰って、(あ)がルーシーの足を拭こうと準備していたからだ。
 ルーシーは、(た)が門を閉める音を聞きつけて、ドアの方を向き「ワン!」と一声鳴いた。それでも玄関に二人がいることが分からなかった(た)は、鍵をドアの鍵穴に差し込み、音を立てた。このドアは最近になって、立て付けが悪くなったのか、大きな音を立て、開けるのに苦労する。おそらく(た)には、自分がたてるガタガタという音で、ドアの内側からする物音は聞こえなかったのだろうが、ルーシーはドアの方を見て「ウ〜」と唸っていた。
 ところがドアが開いた瞬間、ルーシーは「な〜んだ、お父さんかぁ。お帰り〜!」と態度を一変して、尻尾をフリフリして出迎えた。(た)も嬉しそうにルーシーを撫でている。(あ)が「ルーシー、鳴いて唸っていたんだよ」と言うと、(た)は「いい加減、お父さんの足音くらい覚えろよ」と苦笑して、ルーシーに話しかけた。
 このルーシーの態度は、(あ)には少し意外だった。ルーシーはペットショップに生後4ヶ月近くまでいたためか、知らない人が自分の居場所に近づいても、嬉しそうに尻尾を振ることが多い。人好きが過ぎる傾向があり、世の中すべての人々は自分を可愛がるために存在すると思っているようなワンコである。だから、(あ)は今まで「ルーシーはテリトリー意識の薄いヤツだなぁ。番犬としては失格だな。」と思っていた。
 テリトリー意識が「見知らぬ誰かに攻撃されるという恐怖」だとすれば、ルーシーに、そのような意識があってもおかしくない。ルーシーは本質的に怖がりだからだ。我が家の中ではピンと尻尾を全部立てて歩き回っているけれど、玄関を出た瞬間に尻尾は少し寝て、白い先だけが立っている(ちなみにF公園の遊び場所にいる間は、全部立っていることが多い)。散歩のルートを少し変えただけで、リードを引っ張るのを止めて(あ)の顔をしばしば見上げて確認する。雨が降れば車などの音が響くから、同じルートを歩いても、妙にお利口さんになって側に寄りそう。自分が100%安心していられる場所をテリトリーと認識するのなら、恐がりの裏返しで、テリトリーを侵す者に対して、警戒の態度をとるのも理解できる。
 ようやく番犬としての職業意識に目覚めたか?それとも、気まぐれに唸ってみたのか?だけどルーシー、ここはアテの縄張りや。覚えときや〜(岩下志麻風)。