マルボーVS警察犬

通常の生活を送る上で、特殊な任務を負うワンちゃんに出会うことは希だろう。公共交通機関盲導犬に出会うことも少ないのだ。ましてや、空港に行かない限り麻薬犬に、災害が発生しない限り救助犬に、そして犯罪に関係しない限り警察犬に、出会うことはないだろう。ところが、こんなF公園の近くに警察犬がおられる。
 なぜ、それが分かったかというと、「ご自宅」の門にバッチリ看板が出ているからだ。一般住宅に警察マークがついているのを発見した時、(あ)は非常に驚いたことを覚えている。昔見た映画「K―9」でジェームズ・ベルーシが共演していたが、この警察犬様もやはり雄のジャーマン・シェパードだ。なかなかに精悍な顔立ちをしておられる。見るからに非常に賢そうだ。普段は駐車場に作られた小屋の前で、ゴロリと横になっておられる。職務中には緊張の連続だが、プライベートでは「戦士の休息」を楽しんでおられるようだ。(あ)がご自宅前を通り過ぎても、横になったまま耳を少し動かす程度。体格同様、堂々とした態度である。
 時々、飼い主さん(パートナーさん?)が、このワンちゃんを公園に連れていらっしゃるが、他のワンちゃんとは様子がまるで違う。確かに、ワンちゃんは口にボールをくわえておられるが、遊びというよりは訓練のようだ。周囲の刺激に反応することなく、ルーシーのような「お騒がせワンコ」が側をチョロチョロと走っていても、全く気にしない。飼い主さんから出されるシグナルをじっと待っておられる。全く集中が途切れることないところは、さすがとしか言いようがない。
 公園で出会う分に関しては、ルーシーはこのワンちゃんに全く近づこうとしない。相手にされないことを知っているし、逆にやりこめられることは自覚しているようだ。しかし、このワンちゃんのご自宅の前を通ると、ちょっかいを出す。本当に身の程知らずなやつだ。あちらはリラックスできる希少な時間を楽しんでおられるというのに。
 ルーシーが子犬の頃、通りすがりに「遊んで〜」と飛びつくマネをしたことがあったが、警察犬様は「なんだ、ガキかよ」と、アクビを一つかまして横になってしまった。しかし、ルーシーの体が大きくなってきて、あちらも無視できなくなってきたようだ。
 買い物の帰り道に、警察犬様のご自宅前を通過すると、ルーシーは立ち止まり、わざわざ警察犬様に「ガンをつける」。(あ)が一人で歩いている時には警察犬様は横になっておられるが、こちらがルーシーを連れていると、やはり気になるらしい。それでも柵のところで、こちらの動きをじっと観察しておられる。あちらは専守防衛が身についているのか、ルーシーが何かアクションを起こさない限りは、柵のところで動かない。警察犬様がじっと自分の方を見ているのを確かめて、ルーシーは、ガウガウ言いながら柵に飛びつくような仕草を見せる。それをきっかけに、警察犬様は歯を剥き、吠えられる。ものすごい迫力!当然だ、あちらはプロなんだから。「家宅侵入する気か!逮捕するぞ!」と怒っているようだ。
 柵を隔てているという安心感か、それとも「逆ギレワンコ」の名前に恥じないようにか、ルーシーは警察犬様に向かって、さらにガウガウ言うが、他のワンちゃんへの態度とは若干異なる。気のせいかもしれないけど、相手の迫力に「ヤバイかも」と、少し腰が引けている。そこで(あ)が「ルーシー、リーブ!」と声をかけると、体を震わせて素直に引いた。ただし、最後に一言、警察犬様に向かって「ワン!」と鳴いた。
負け犬の遠吠えみたいなものか?(あ)には、「今日は、このくらいにしといたる」としか聞こえないけど。