尻尾は長い友達

 ご近所のボーダーちゃんたちの中で、唯一ルーシーが負けていないもの。それは尻尾である。体長に比べて長いし、毛もフッサフサなのだ。家の中で尻尾を立てて歩いている時、尻尾の先端にある白い毛が広がって、ちょっとした毛槍みたいである。(あ)は、ルーシーが尻尾を立て廊下を歩いている様子を「ひとり大名行列」と呼んでいる。「下に〜」と言っても、誰も頭を下げる人はいないけど。
 摂取した栄養は、すべて脳ではなく毛と尻尾に行ってしまったのではないだろうか。あまり頭は大きくなっていないし、顔もどちらかというと子供っぽい。そして、毎日追いかけられるもんだから、尻尾は必要以上に鍛えられてしまったのかも。
 つまらない時、理解できない時、我慢させられていた時、その気がない時に「シーシー(No.1の方)しなさい」と言われた場合、ルーシーは尻尾を追いかける。かといってストレス解消だけではなく、この現象はルーシーの期待がふくらみ興奮する場合にも見られる。たとえば歯磨きの用意をしていると、それを見たルーシーは興奮してしまい、ガウガウ言いながら尻尾を追いかける。つまりは、一日一回は追いかけることになる。
 風呂場で足だけを洗おうとすると、それまで立っていた尻尾が下がる。大嫌いなシャワーをされると思い、ガックリくるのだろう。気分の問題はともかく、尻尾の白い毛は、汚れた足の下の方まで届くので、シャワーで足を狙っても尻尾まで濡れてしまう。(あ)がルーシーの足を一本ずつ掴んで泥を落としていると、ルーシーは風呂場にむりやり入れられたストレスのせいか、狭い洗い場で尻尾追いを始めようとする。なんでこんな時に?ややこしいことするなぁ。
 という訳で(あ)は尻尾ぶくろを用意した。レインコートが入っていたビニール製の袋で、開口部にヒモがついていて、これを絞って閉めることができる。足だけを洗う時は、これに尻尾を入れるのだ。そうすれば、尻尾を濡らすこともないだろう。
 今朝もルーシーは廊下でガウガウ言いながら、自分の尻尾を追いかけていた。見ると、口には白い毛が2,3本ついている。オイオイ、毛をむしっちゃったのか!!捕まえて、試しに尻尾ぶくろを装着してみる。そして「ルーシー、せっかく立派な尻尾なのに大切にしないとダメだよ」と言い聞かせる。
 若干緩いけれど「袋は2つあるから、一つくらい破られても良いか」と思って観察していると、ルーシーは尻尾追いを止めてしまった。そして、ウロウロと廊下を歩くものの、尻尾の方を見ようとしない。洗面所に入っていき、そこから頭だけを出して廊下にいる(あ)の様子を窺っている。どうやら何かヘマをして、罰を与えられたと思っているようだ。
 ルーシーは、ヘラヘラ笑いながら、ゆっくりと(あ)の方にやってきて顔を舐めようとした。仰向けに抱っこされたり、足を拭かれたりする時に見せる「イヤだ〜」という露骨な態度ではない。どちらかというとゴマスリだ。
 ルーシーは「もう、お母さんたら冗談ばっかり」「これで勘弁してくださいよ〜」と、ヘラヘラ笑って甘えてくる。(あ)が「ゴメン、ルーシー。紺色の方が良かった?」と言うと、いじけたフリをして、洗面所に戻り頭だけ廊下に出して、こちらの様子を窺っていた。