さくらちゃん

 最近、甲斐犬のさくらちゃんが、ルーシーの相手をしてくれなくなった。去年は芝生を縦横無尽に走り回り、ともすれば自分が大好きな山へと他のワンちゃんを誘導し、先陣を切って沼に突入していた。
 今年の梅雨が始まる前のある日、さくらちゃんは、クウちゃんとは追いかけっこをしていた。ところが、そこにルーシーが自分に無断で加わったことが、気に入らなかったらしい。急にルーシーに対してガウガウ言い出し、噛むマネをしたのだ。おそらく二匹を相手にするのは面倒だから、ルーシーに「アンタは来ないで」と言いたかったのだろう。クウちゃんは相手に合わせた遊びができるが、ルーシーはてんでガキなので、相手の都合など小指の先ほども考えない。ルーシーにしたら、自分はクウちゃんとも、さくらちゃんとも仲良しだし、これまで機会があれば、一緒に追いかけっこをしていた。自分は二匹の後ろから追いかけていただけなのだ。そこで「なんで私が文句言われないといけないのよ」と逆ギレした。
 一方、驚いたのはさくらちゃんである。まさか、ルーシーが逆ギレするとは思わなかったらしい。さくらちゃんに刃向かうワンちゃんは少ない。周囲の雄のワンちゃんは、大体一回は怒られて負けているくらいだ。ルーシーについては、自分が仕掛けた以上は相手を力でねじふせるしかない。一瞬ガウガウと取っ組み合う二匹。なんとか引き離し落ち着かせたところ、その後は二匹とも相手を無視していた。
 その一件以来、さくらちゃんはルーシーと遊ぼうとしなくなった。飼い主さんは「さくらも、もう3才だし、あんまり他のワンちゃんと遊んだり、追いかけっこをすることもなくなったわねぇ」と仰る。ルーシーはといえば、自分が当事者のくせに、さくらちゃんと喧嘩をしたことすら覚えていないらしく、今でも会えば「ねぇねぇ、走ろうよ」と、相手に飛びつくようなフリをして誘っている。一方のさくらちゃんは、大抵の場合、なんだか迷惑そうに目をそらす。まれに気が向いた時は、走ってくれることもあるが、それでもすぐに止めてしまう。走っている途中に、逆ギレの一件を思い出したのかしら?やれやれ、また一匹、ルーシーと遊んでくれるワンちゃんが減ってしまった。
 ルーシー、アンタも相手に合わせた遊びをするか、少しは大人になりなさいよ。じゃないと、友達がどんどん減っちゃうよ。