ノーマンvsシャーマン

 今、アメリカはコロラド・スプリングスで一番有名な犬といえば「ノーマン」なんだそうだ。スパニエルの血を受け継ぐ白と茶色の子犬が、この地域のみで放映されているテレビCMに登場して「ワン」の代わりに「モー」と鳴く。ちなみに、これはCMのストーリー上の設定だから、「モーと鳴く犬」は実際には存在しません。ご安心下さい。
 このCMは、同性愛者の権利を訴えるサイト(ボーン・ディファレント)と共に、「生まれつき他の人(犬?)とは違うこと」について、考えて欲しいと訴えている。なお、スポンサーは、同性愛のペンギンのカップルも起用して、キャンペーンを展開している。
 自分で選んだ訳ではないけれど、生まれつき他人とは違うことで、本人が苦しみ、社会に適応しようと努力しても、なかなか受け入れてもらえない。これは同性愛だけではなく、他の問題についても事実であるし、アメリカだけではなく、他の国でも同じ事だ。このスポンサーがノーマンを起用したのは、政治的な問題を提起するためではないという。「まず、この問題について考えて欲しい」と訴えているのであり、CMが議論の発端となればと考えているからだ。そして、社会が同性愛者を受け入れるようになれば、将来は同性愛者同士の結婚へとつなげていきたいと考えている。議論の発端という意味では、ノーマンの起用は多大な効果を生んでいるようだ。実際、ノーマンとハンドラーは町に出て、「いつ、あなたは異性愛好者になろうと選んだのですか?」と疑問をぶつけ、人々に考える機会を与えている。
 ところで、なぜこのCMは、コロラド・スプリングスだけで放映されているのか?この地域はキリスト教色が根強く、フォーカス・オン・ファミリーという団体の本拠地だからだ。この団体は伝統的な家族そして結婚制度を維持する活動を行っている。ノーマンの登場で、さらに同性愛者の数が増え、伝統的な結婚制度が脅かされることを危惧した団体は、これに対抗するキャンペーンを打ち出した。このキャンペーンのマスコットは、シャーマンという犬と、「過去に同性愛だったが、ついに異性愛に目覚めたペンギン」である。スポークスマンは、「モーと鳴く犬は可愛いかもしれないが、だからといって結婚制度や社会の基盤を壊すことは許されることではない」という。(雄のペンギン、サイロはボーイフレンドのロイを捨て、雌のスクラッピーとカップルになったそうだ。)
 ここまで来ると、シリアスな問題がコミカルに見えてくる。互いに必死になればなるほど「本気なの?」と言いたくなってしまう。そのうち、両団体関係者による「ドッグ・ファイト」になるのではないか?・・・お後がよろしいようで。チャカ、チャンリン、チャンリンチャン、ドンドーン。