違いのわかる男

 涼しいうちにと早い時間から散歩に出たはずなのに、F公園に着く頃には汗だくのヘロヘロ。ルーシーも、朝一番に水をたくさん飲んだけれど、側でハァハァ言っている。歩くだけだからと思い持参しなかったが、やっぱり水を持ってくれば良かったなぁ。
 すでに公園でボール遊びをしていたサンタちゃんに出会う。梅雨だろうが雪だろうが、サンタちゃんは朝夕この公園でボール遊びをする。昨日の夕方スコールのような雨が降り、芝生の広場には水たまりができていた。サンタちゃんの足も「エビフライ」が濡れて、カールした毛が「チリチリに揚がった」状態になっている。
 サンタちゃんに会うたび、(あ)はルーシーとの違いを目の当たりにして、ガックリしてしまう。
 まず、サンタちゃんにとって一番嬉しいことは、飼い主さんにボールで遊んでもらうことだ。それでも、自分がもっと遊びたいと思っている時に、飼い主さんに「おしまい」と言われたら、ききわけ良くあきらめられる。また、他のワンちゃんに決して意地悪をしない。ルーシーのように、サンタちゃんが遊んでいるボールを横から奪い取って「ここまでおいで〜」などと挑発しない。
 雨や雪の日はレインコートや帽子も身につけるのだが、決して嫌がらない。濡れるからと耳を包むような帽子をかぶせられても、嫌がって脱ごうとしたりしない。ルーシーは、散歩のたびにTシャツを着るのだが、今になっても逃げ回っている。
 おやつが欲しい時は、くれそうな人の前に静かにお座りをして待っている。決して、ルーシーのように相手に飛びついたり、ストーカーのようにつきまとったりしない。そして「サンタ、アンタ食べ過ぎやで。おしまい。」と自分の飼い主さんに言われたら、素直にあきらめられる。飼い主同士が話をしている時も、静かに足下で待っているか、周囲をフラフラ歩くけれど決して脱走したりしない。ルーシーのように、自分が退屈だからとか遊びたいからといって、吠えて「もうどこかに行こうよ」などと催促しない。
 足が汚れたら、飼い主さんの「サンタ、足を洗っておいで」という言葉に従い、自分から噴水に入る。昔はサンタちゃんも水が苦手だったそうだが、少しずつ慣らしたら自分から噴水に入るようになったそうだ。それを見た(あ)が「ルーシーも寝ぼけていたら入るかも」とリードを引いて噴水の方に近寄ったところ、噴水の手前で四つ足を踏ん張って動かなくなった。あ、やっぱり起きてましたか。
 そんな優秀犬のサンタちゃんだが、飼い主さんは「腹立つわ〜」と仰る。
 サンタちゃんは最近暑いのに、水を飲まなくなったそうだ。家の中で、いつでも水が飲めるように容器に用意しておられるそうなのだが、全く飲んだ気配がない。心配になった飼い主さんが、ヤギのミルクの粉末をほんの少し水に溶いて与えたら、ゴクゴク飲んだ。その後は、それしか飲まなくなったそうだ。
 そういえば、サンタちゃんはグルメだった。ちらし寿司の具(酢飯は苦手)、ウナギの蒲焼き、ぶりの照り焼き、100グラム○千円のステーキ肉など、怒られるのは重々承知の上で盗み食いをしていた。やっぱり、ただの水は美味しくないですか?
 飼い主さんは「本当に腹立つわ〜」「サンタ、アンタこれで3杯目やで。いい加減にしなさいよ」と言いながら、ヤギのミルクを器に注いであげていた。
 賢すぎて違いのわかる男。それがサンタちゃんなのである。