怪しい

 ルーシーは子犬の頃から「自分を可愛がるために人は存在する」と思っていて、ボーダーコリーにあるまじき超フレンドリー、ゴーマン・ワンコなのだが、最近になって、知らない人を怖がるようになってきた。怖がるのはともかく、困ったことに吠えるのだ。
 玄関先でブラッシングをしていたら、知っているはずのご近所の奥さんが、大きなゴミ袋を抱えて我が家の玄関前を通った。その姿を見つけるや、ルーシーは急に吠え始めた。大きな物を持っている人は脅威に見えるらしい。先方の「おはようございます」という声で、ようやく「あ、○田さんのおばちゃんや。なんや〜」と安心し、鼻をクンクン言わせる。一瞬で急変する態度に、(あ)はずっこけてしまった。犬は目が良くないから、相手が誰かを認識するのにシルエットや音に頼ったせいかもしれない。いささか、しょうがない部分もあるけれど。
 夏の早朝、公園には多数の高齢者がおられる。以前にも書いたが、ルーシーは、腰が曲がった人や、動きの緩慢さが尋常ではない人に警戒感を持つことが多い。そして、通常そういう人は高齢者なのだ。ルーシーは、過去に高齢者から何か酷い目に遭わされた訳ではなく、日常生活で高齢者にふれる機会がないため、相手の正体が分からず不安らしい。
 (あ)は、そのような人がやって来たら、なるべくルーシーよりも先に見つけ、エサでつるなりしてルーシーの注意をそらせている。一旦「ロックオン」したら、リードを引こうが頭を掴もうが、ルーシーは相手がいなくなるまでガンをつけ、酷いときは吠え続ける。警戒態勢は相手が自分の視界から消えるまでか、相手が背中を向けて自分に敵意がないことを確認するまで続く。だから、(あ)はルーシーの注意がとぎれないようにエサでつり続けなければならない訳で、これは非常に長い時間に感じる。相手は高齢者だから、しょうがないのだけれど。
 吠えるといっても、歯を剥いて敵意まるだしという感じではない。「アンタ誰や、私怖いんや、来んといて。」と言い放っている感じ。しかし、吠えられた方は良い気分はしないだろう。特に犬のことを知らない人や元来犬に先入観のある人は、ますます悪い印象を持つことになる。
 昨日の朝は、高齢者が団体で公園にやって来た。ウォーキング愛好会か何かなのだろうけれど、一応に同じような服装で比較的遅いスピードでぞろぞろと石畳の道を歩いていく。芝生でリードにつながれていたルーシーの目が、一瞬「家畜を見る目」になった。(あ)は慌ててビスケットを出して注意をそらせる。この時はアデルちゃんが一緒だったので、ビスケットをとられたくないルーシーを釣ることができた。ところが、お座りをしてビスケットを見上げているはずのルーシーの目が、なぜか背後の「家畜の群れ」の動きを追っている。ダメだっちゅーの!
 今日の朝は、後ろ向きに歩く人にガンをつけた。硝子張りの博物館に向かってヒンズー・スクワットをしている人に吠えた。
 そりゃね、公園はペットではなく、人間の利用のために作られていますよ。そして、人間に向かって吠える犬はしつけが行き届いていないのも確かです。だけどね、犬の目線から見れば、やっぱり怪しいよ。やらなきゃいけない運動かもしれないけど。