チェシャ猫のように

 犬は笑うか?この質問に対して、専門家の答えは「はい」と「いいえ」の両方。犬は遊びの催促や甘える時に、鼻にシワを寄せ上唇を持ち上げて大きくあけ、人を見上げる。その一方でこの表情を浮かべるのは、人間のように、嬉しいとか楽しいという感情を表現しているのではないという。
 その証拠に、犬だけが集まる場合には「笑み」を見せることはないそうだ。せいぜいが口を開けて横から舌を出し、相手を見上げる程度だとか。犬は「笑み」を浮かべると、人間が自分に注目してくれて、時に自分の要求に応えてくれることを知っている。つまり人間とふれ合ううちに、犬は自然と「笑うことを覚える」そうだ。だから犬の「笑み」は、媚びやリーダーに対する服従・従属表現のひとつだ。しかし、そのうち犬は純粋に自分の親しみや喜びの感情を表現するため、この表情を浮かべるようになるという。
 同じ質問が、あるサイトに出されていた。寄せられた答えの90%近くが「笑う」だった。「ウチのシーズーは」「ボクのドーベルマンは」と皆自分のペットを例に挙げている。でもそれは、私を含めて、やっぱり飼い主の希望的観測と思い込みかもしれないな。
 猫は笑わないのか?猫は本来、群れで生きる動物じゃないから、媚びる必要はないのか?でも、マタタビのニオイを嗅いだ時とか、猫にも嬉しいことはあるよねぇ。
 子供の時「一体、チェシャ猫って、どこにいるんだろ?」と思っていた。ペットショップで猫を見るたびに「チェシャ猫」の札を探していたのだが、見つからない。調べてみたら、特定の猫の種類ではないから、ペットショップにいる訳がないんだよね。
 チェシャ猫は、Cheshire cats。一説には、チェスター港に棲む猫のことだという。チェスター港にはチーズの倉庫があり運搬船が行き来していたため、猫は港に住み、ロンドンから船でやってくるネズミを待ちかまえている。エサに困ることがないから、英国で一番恵まれた幸せな猫だということで、70年代までは港に猫の像が立っていたそうだ。
 ちなみに「チェシャ猫のように笑う」というのは、ルイス・キャロルの「不思議な国のアリス」から生まれた表現である。ちなみに笑い方としては「常に笑っている」と「謎めいた笑みを浮かべる」の二種類があるようだ。
 ルーシーはよく笑う。彼女が「笑い」らしき表情を浮かべる時、少なくとも不幸ではないと思う。(た)が帰宅した時は、尻尾をブンブン振って大歓迎。目をキラキラさせ、耳を倒して口を大きく広げてみせる。やっぱり嬉しくて笑っているんじゃないかしら?
 ルーシーは足を拭かれるのが大嫌いで、必ず鼻面に皺を寄せ、歯を剥いて唸る。注意しても止めない時、(あ)はわざと手を出してルーシーの口に近づける。「じゃ、噛みなさいよ。その代わり、その後は『ウー』って言ったらダメだよ」と言う。すると、ルーシーは歯を剥いたまま手を舐める。いけないことは重々理解しているのだ。そして一瞬だけ反省して、わざわざこちらの手の下に自分の頭を突っ込んで「撫でて」と訴える。そして、ニカッと笑ってみせる。(あ)が「『ウー』止めたね。エライね。」と褒め、また足を拭こうとすると、その瞬間に歯を剥いて唸っている。全く忙しいヤツだ。
 笑って媚びても、聞き入れてもらえない。そういう時もあるんだよ、ルーシー。