ヨーグルト

 犬とは、つくづく自分勝手な生き物だ。ドライブで大騒ぎの次の日は、一日中、雨で家でゴロゴロすることになったら、ルーシーは(あ)に近づいて来なくなった。廊下に寝ていたので頭を撫でてやろうとしたら、スイッと器用に頭を動かして(あ)の手をすり抜けた。「ルーシー、揉んであげるからおいでよ」と声をかけても、離れた場所に歩いていってゴロンと横になる。そして、こっちの方を「ウザイんだよ、ったく」とばかりに流し目をくれて、自分からスタスタとサークルの中に入った。なんだよー、いつもだったら「揉め。もっと真剣に揉め!」って、グイグイ体を押しつけて訴えてくるじゃんか!
 腹が立った(あ)は、冷蔵庫からヨーグルトを取り出し、廊下で食べてやったさ。ええ、私、真剣に腹が立ってたさ。だって昨日一日で神経はすり切れ、サークル(安売りだけど、後から訊いたら6,000円近くしたんだって)は崩壊。なのに感謝知らずの飼い犬に無視されるなんて、ありえない!!
 ルーシーは、(あ)が何やら食べているのに気が付き、飛び起きて(あ)のそばに寄ってくる。さっきと全く違うキラキラした目で、こちらを見つめている。そして、しきりに鼻をピクピクさせて「お母さん、何食べてるの?」と探っている。
 (あ)は、ルーシーがヨーグルトの香りを感知するかしないかの距離で食べて見せ「あ〜、美味し〜」とニッコリ笑う。ザマーミロ!ウザイと言われて、お母さんは傷ついたんだからな!
 Dr. 野村の本に「犬は、飼い主が食べている物を欲しがる」と書いてあった。道端に肉とポッキーとが落ちていたら、普通、犬は肉に行ってしまう。しかし、自分のお椀の中に肉が盛ってあって、飼い主がケロッグを食べていたら、肉よりもケロッグを食べたがるそうだ。必ずしも「人間の食べ物が好き」というのではないけれど、飼い主が食べるものには相当興味があるらしい。
 さすがに、ルーシーは「お母さんは怒っているから、お利口さんにしないと、これはもらえないな」と思ったらしい。ただし、お母さんが怒っている理由は、都合良く理解しようとしない。とりあえず「伏せ」でもして、ゴキゲンをとろうかな〜。
 ルーシーは(あ)の正面で、わざとらしく「伏せ」をする。(あ)はこれを無視して、ヨーグルトを持ったまま体の向きを変えて「あ〜美味し〜」と言いながら食べて見せる。慌てたルーシーは、また(あ)の正面に移動して、伏せをする。そこで、(あ)がまた体の向きを変えようとしたら、膝に妙な感触がした。ルーシーはお座りをして、(あ)の膝に顎を乗せ「うらめしや〜」と見上げていたのだ。
 結局、根負けしてティースプーン半分ほどのヨーグルトを与えることにしたのだが「意地悪はほどほどで止めないとダメだな」と反省した。ちなみに人間の食べ物については、犬は「味見」だけで満足できるそうだ。人間が何を食べているのか、どんな味のものなのか、それが分かったら、犬は肉に戻るらしい。