遊びのルール

 昨日の夕方、公園でルーシーにフリスビーを投げていると、小学生の男の子たちが集まってきた。大きい子でも3、4年生くらいだろうか。中には兄弟で来ている子もいたようだ。
 男の子達は、初めは上の芝生でサッカーをして遊んでいた。邪魔にならないように、(あ)が下の芝生でルーシーにフリスビーを投げていたら、彼らは興味を持って近づいてきたようだ。フリスビー目がけて走っていく犬を見て「ボクもやりたい」と口々に言い始めた。
 ちなみに(あ)は、この言葉が大キライだ。見ず知らずの他人が自分の願望を口にして、なぜ私がその願望に沿わなければいけないのか?大人げないと笑われそうだが、これは相手に何かを頼む態度ではないと思うのだ。別に「ボクにやらせてください」と丁寧に頼めと言っている訳ではない。子供なんだから「ボクにもやらせて」で充分だ。問題は、相手を完全に無視した物の言い方だ。コミュニケーションの基本原則に反しているではないか。こういう話し方をするから、大人になってナンパする時に「ねぇ、カノジョ」と目の前にいる相手に向かって、三人称単数で呼びかけることになるのだ。
 ま、そんなことはともかく。
 「フリスビーが沼に落ちたら拾ってきてよ」と少し意地悪く言って、一人の男の子にフリスビーを渡す。男の子達は一人一人投げてみるが、フリスビーは空中に飛ばずに地面に落ちてしまう。ルーシーも地面に伏せたまま「アレ?」と見つめている。犬が追いかけられるようにフリスビーが放物線を描くように投げるのは、特に身長の低い子供たちにとっては、なかなか難しいことなのだ。
 (あ)は、すぐに男の子達がフリスビーに興味を失って去ってしまうだろうと思っていた。元々サッカーをしに公園に来た様子だったからだ。ところが、彼らは自分たちだけでフリスビーを投げ合いながら、どこかに行こうとする。上手に投げられないことは、この際気にならないらしく、サッカーボール以外に新しいオモチャを手に入れたとでも思っているのだろうか?オイオイ、それはルーシーのものなんだけどなぁ。
 ルーシーに水を与えているうちに、今度はグループ内で喧嘩が始まった。原因は何かは分からない。
 元々男の子の遊びというのはラフなものだが、兄弟の下は「やられっぱなし」であることが多い。兄貴に何をされたのかは知らないが、弟は口の中を切り歯が赤く染まっていた。憤懣やる方ない弟は、突如兄貴に食ってかかり、(あ)の目の前でつかみ合いが始まった。周囲で他の子供達が「やれ、やれ、もっとやれ」とはやし立てる。
 (あ)は一瞬悩んだ。この子供達はいつもの遊び仲間らしいので、彼らには彼らの遊びのルールがある。自分が注意して、よしんばその場でのつかみ合いが収まったとしても、それは一時的だろうし意味がないことかもしれない。その一方で、ケガをしている目下の子を相手につかみ合いをすることは卑怯だということ、周囲で喧嘩を煽ることに責任を感じていないこと、これは見逃して良いことではない。
 二人の間に割って入り、腕を掴んで「ケガしているんだったら、そっちの手当を先にしなさい。いつも遊んでいる仲間なら、勝負はまた別の日でも良いでしょ?」と説得する。兄らしき子に「相手がケガをしていると分かっているのに、その子を相手にするのは止めなさい」弟らしき子に「今日でなくても、いつでも勝負はできるでしょ」と言いきかせる。当の二人はある程度納得したのだが、周囲の子供達が許さない。「そんなん、かまへんやん。おもろかったら、エエんや」「やれよ」と、なおも煽り続ける。かなり悪質だ。
 (あ)は、注意しても相手に聞く様子がないことにウンザリしてしまった。呆れながらフリスビーを回収する。ルーシーも周囲の大声にビクビクしているので、その時点で散歩を終了することにした。
 帰り道に他のワンちゃんのお母さんに出会い、事情を話すと「側に大人がいて子供が喧嘩していることを知っていながら『放っておいたのか』って、後で言われるからねぇ」と言われた。
 その通りだ。(あ)がやったことは、大人として自分の体裁を繕ったに過ぎない。それでもやはり周囲で喧嘩を煽ったり、ケガをしている子を相手に本気で喧嘩をするのは、いけないことだ。子供たちには、そのことを理解して欲しかったのだけど・・・。