Give & Take

 先日のシツケ教室で、(あ)はN先生から再三「フードに頼りすぎ」と注意を受けた。
 元来反抗的な性格のルーシーは、家でもご褒美がない場合には、こちらの声が聞こえないフリをするし、ご褒美のつもりで褒め言葉をかけ、顎の下を撫で、オモチャを与えたとしても満足しない。「それはそれ、これはこれ」と、フードが出てくるのをシブトく待っている。期待通りにフードがもらえない場合には「アウゥ」と文句を言う。フードがなくても指示に従うように誘導するため、食事の際には、なるべく連続技をさせるようにしているけれど、ご褒美をお預けにすると、ルーシーは小さな声で「フフフフフ」と鼻を鳴らし「お腹が減って死にそうですゥゥ」と訴えてくる。
 優良家庭犬の試験を受けさせるとか、服従訓練の競技会に参加させるならともかく、(あ)は個人的にはギブ&テイクでも良いと思っている。家でも公の場所でも、テイクする代わりに必ずギブするのであれば。家以外の場所で飼い主の指示に従うことは、犬にとっては−−特にルーシーにとっては−−非常に難しいことだ。周囲には他のワンちゃん等、刺激になるものが溢れていて、飼い主に集中することは非常に難しい。ルーシーは公園では自由に遊べると理解しているのから、他に誰もいなくても、公園でシツケ教室で習ったことのおさらいをするのも難しいくらいだ。
 一方、N先生によれば「貴女が思っているほど、ルーシーはフードを必要としていない」という。教室に入れば、飼い主や先生の指示に従うものと、ルーシー自身が理解できているというのだ。確かに周囲にワンちゃんはいるけれど、ルーシーが取っ組み合いをして遊べる状況でも雰囲気でもない。ルーシーは先生に褒められたい一心で、少なくとも、できる限りの範囲でお利口さんのフリをしている(あくまでフリだけど)。その一方で、先生が話しておられる最中に、時折吠えては、こちらの注意を促そうとしたり、フードを要求したりすることもある。これは、まだまだ集中力が持続するスパンが短いからだろうけれど、「ギブ&テイクでしょ?私、お利口さんにしたよ。だから、ご褒美をちょうだい」と言っているように聞こえる。
 一匹ずつ皆の前でデモをする時、(あ)がフードを与えようとすると、N先生は「今、あげない」「まだ!」と注意を出した。フードが出そうなのに、先生の声で引っ込められる様子を見て、ルーシーは「?」と首を傾げていた。そのうち注意が逸れるようになり、集中力が落ちてきた。なんとか連続技が終わったところで、先生は「フードのご褒美ではなく、遊びのご褒美をあげてください。」という。しかし、ルーシーは(あ)の前にお座りしてフードのご褒美を待っている。私が与える遊びのご褒美って、コイツは有り難がらないと思いますけど・・・。案の定しばらくすると、授業中だというのに、リードにつながれたまま尻尾追いを始めてしまった。
 ひとつには、飼い主二人に対して、ルーシーがそれぞれに期待することが違うからだと思う。ルーシーは(た)にはエンターテイメントを求め、(あ)にはもっぱらエサを求めている。だから同じようにフリスビーをしたとしても、(た)の場合なら、ルーシーは真剣にフリスビーを持ってくるけれど、(あ)だとチャランポランになってしまうのだ。だから(あ)が遊びのご褒美を与えたとしても、ルーシーは有り難いとは思わないだろうし「なんだかダマされた感じ」と思うのだろう。
 本当にルーシーはフードなしで指示に従うようになるのか?何事も直ぐには結果が出ないだろうけど、(あ)自身、非常に疑問に感じている。