ノロ・ウィルス騒ぎ

 深夜に帰宅した(た)は嘔吐と下痢に苦しんだ様子で、朝になっても起きてくる気配がなかった。(あ)は年末に(た)から「職場でノロ・ウィルスに感染したらしい同僚がいる」と聞いていたので、「すわ、我が家にもウイルスが入り込んできたか」と戦慄した。外は吹雪だったが、とりあえず自分は長靴を着用し、ルーシーにレインコートを着せて散歩。排泄をさせたら、そこそこに帰宅。直ぐに玄関先のサークルにルーシーを隔離して朝食を食べさせる。
 最初に人間用トイレを塩素洗浄。拭き掃除で使った雑巾はすべてビニール袋に入れて廃棄処分。(た)が通勤で使用するカバンはアルコール洗浄(持ち手の部分は皮なので塩素洗剤が使えない)して一旦隔離。着用していたスーツなどは、とりあえずゴミ袋に入れてウィルスの拡散を防ぎ隔離して、汚れ物は全て塩素洗剤の溶液に浸ける。また(た)が歩いたであろう二階の廊下から玄関までのルートを、ルーシー用に購入していた殺菌剤で拭き掃除。ウィルスや塩素を吸い込まないようにと、息を潜めて作業するのは非常に苦しかった。
 ここまでの作業を終わらせたら10時近くになってしまった。まだ寝ている(た)に声をかける。外は雪だし車の運転は苦手だが、そうは言っていられない。病院に行くなら(開いているとしたらだけど)午前中に行かないと。ところが、だ。
 「え?」とトボケた返事。「ノロ・ウィルスじゃないと思うんですけど」
 昨夜はシコタマ飲んだ(た)は、飲み慣れない日本酒にヤラれてしまったらしい。帰宅して玄関チャイムを何回も押して(あ)を叩き起こしてドアを開けさせたことも全く覚えていなかった。今朝はスッキリとしたお目覚めで、全く体調の異変がないらしい。
 (た)がノロ・ウィルスに感染していなかった(らしい)ことは幸いだが、それでも(あ)には納得できないことがある。同じ職場に、ノロ・ウィルスに感染したらしいスタッフがいたとする。その場合、会社はどんな対処法を執るのだろうか?
 訊けば、件の社員さんは既に職場に復帰していて「詳しいところは分からないけれど、ノロ・ウィルスじゃなかったみたい」と言う。(た)の口ぶりでは、まだその正体は分かっておらず、そのままにしておくことになりそうな感じだった。
 ノロ・ウィルスはOー157と同様に法定伝染病ではないけれど、感染力が強くアルコール洗浄くらいでは殺菌できない。職場でウィルスに感染し、家庭に持ち帰って抵抗力の弱い子供や高齢者が感染することになったら、どうするのだろうか?子供は学校に行き、そこでまたウィルスは拡散する。お母さん達は、各家庭で子供達のために考えられるだけの予防策を執っておられるだろうけれど、大人の手洗いの仕方まで注意することはできないだろう。家庭で予防策を執っても限界があることは否めない。
 ノロ・ウィルスかどうかは別として、感染の疑いがあるのなら、企業はそれ以上拡散させない努力をすべきだと思う。それが他の社員への感染を防ぎ企業側の損失を防ぐことになり、家庭への拡散を防ぐことになる。発生時なら消毒作業も大がかりでなくても良いだろう。疑いのある社員の周辺だけで済むはずだからだ。
 企業や学校は法定伝染病以外の感染症に対する危機管理を徹底して欲しいものだ。さて(た)を血祭りに上げることとしよう。