怖いおばさん

 ルーシーが通う遊び場にはさまざまなワンちゃんが集まる。基本的には皆、仲が良い。一つのボールを追いかけて遊んだりもするが、喧嘩に発展することは少ない。それは飼い主さんたちがそれぞれに目配りをして、役割を分担をして、大事に至る前に対処しているからだ。
 ルーシーの場合、自分が遊んでいる途中で(あ)に呼ばれたら「怒られるのかな?」と思うらしく、なかなか戻ってこない。呼び戻しが効かないと見るや、他の飼い主さんが「ルーシー、おいで」と声をかけて下さる。また、他のワンちゃんが脱走しそうな素振りを見せたら、(あ)が高い声で名前を呼ぶ。(自分の飼い主が持っているものより、他の飼い主さんにもらうおやつの方が美味しいらしいのだ。約80%の確率で、これは成功する。)特に飼い主の間で取り決めをした訳ではないけれど、自然に発生した協力態勢がある。仲良しのワンコもいるし、先輩飼い主さんのアドバイスも聞けるので、(あ)もルーシーも居心地が良く、夕方になると、そちらへ自然と足が向く。
 集まるワンちゃんは、バーニーズからミニチュアダックスとさまざまだ。珍しいことにルーシーに最近ご執心のワンちゃんもいる。ミニチュアダックスと何かのミックスらしく、体高が非常に低い。ルーシーはクーちゃんとの取っ組み合いに夢中だったが、そこへ後ろからマウンティングをしかけようとしていた。♀とはいえルーシーとクーちゃんの遊びはかなり乱暴で、互いにスッテンコロリと地面にひっくり返っている。ルーシーの下敷きになっては大変と(あ)は何回か執心のワンちゃんを二匹から引き離した。ところが何回引き離されても、去勢をしていない子はルーシーを追いかけていた。
 このワンちゃんを連れていたのは小学生で、全く犬を見守ることなく自分の友達との遊びに夢中だった。また、その友達が連れていた別のワンちゃんは、ミニチュアダックスだったが、バーニーズ2匹にマウンティングをしかけていた。
 「ちょっと、○○くんの飼い主さん!」と、たまらず(あ)は声をかけた。「○○くんは遊んでいるだけかもしれなけれど、おばちゃんが引き離しても引き離しても、ルーシーに乗ろうとしているよ。そのうちルーシーの下敷きになってケガをしても、おばちゃんは責任持たないからね。ちゃんと見ててよ。」クーちゃんのお母さんも「危ないから○○君をリードにつなぐよ」と声をかけた。
 それを見ていたミニチュアダックスを連れていた小学生が「アイツ、ずーっとルーシーに乗ろうとしてるな」とあざ笑うように言った。それにムカッときた(あ)は「他人事やないよ。キミのワンちゃんも△△君のお尻ばっかり追いかけてるじゃない。あれこそ危ないよ。踏みつぶされても、誰も責任持たないよ」
 二人の小学生は、それぞれに慌ててリードを手に取り遊び場を離れた。別に、私はここから追い出すつもりはなかったんだけどな。そんなにキツく聞こえたんだろうか?
 後でクーちゃんのお母さんに尋ねたら「あの子達、そんなことにコタエるような子じゃないですから。大丈夫。」と、笑われた。ご近所ということで、二人とも良く知っているらしい。
 でもさ、ということは「怖いおばさんの小言」くらいにしか受け取ってもらってないのかな?それも困るなぁ。