もよおす顔

 つくづく不思議なことがある。(あ)が朝ルーシーをクレートから出してやると、ルーシーは家の中でなかなかNo.1をしないのだ。反抗的だからという理由ではなさそうだ。なぜならば、夕食後は(あ)の指示に従って、洗面所に入りトイレシーツの上でちゃんと用を足せるからだ。
 主婦の朝は忙しい。朝の5分は、昼間の15分の価値がある。人間のための家事以外に、ルーシーの洗濯、食事、散歩の用意までしないといけないのだ。天気によっては、洗濯を散歩に出る前に済ましていかないといけない場合もある。そんな場合はルーシーを待たせておかなければならない。せめてNo.1を済ませておけば少しばかり時間を稼げると思うのだが、当の本人は知らん顔だ。(あ)の体に頭やお尻を押しつけて「揉んで〜」と、いつまでも要求する。大人になって、尿意や便意を我慢ができるようになったからだとは思うけれど、こっちにはかまってやる時間はない。
 「ルーシー、シーシーしな」と声をかけ、こちらはリビングで掃除機をかける。するとルーシーは、リビングのドアのガラス部分から、こちらの様子を窺っている。少し上目遣いに見る表情は「なんで揉んでくれないの?」「散歩、まだ?」と訊いているようだ。思えば掃除も洗濯も、ルーシーには関係ないことだものなぁ。無言の圧力もさることながら、廊下も掃除しないといけないし・・・。むむむ。
 しかたがないから、最近ではクレートから出す時間を遅らせている。ルーシーがクレートにいる間に、他の用事を済ませておこうという作戦だ。クレートの周囲で掃除機をかけたり、洗濯機を回したりと盛大な音を立てるので、ルーシーは起きてはいるだろうが、鳴いて「外に出せ」と訴えることはない。ところが、家事を8割方終わらせてクレートから出すようにしても、やはりルーシーは家の中で用を足すことは少ない。
 一方(た)が起こすと、ルーシーはちゃんと用を足せる。すごい時は使用済みのトイレシーツが二枚もゴミ箱に捨てられていることがある。何なのよ、この違い?
 今朝は(あ)が起こしたところ、案の定ルーシーはNo.1をしようとしなかった。そこで(た)に「貴方の方がルーシーにシーシーさせるのは上手い」「貴方の顔を見たら、興奮するからもよおすのかも」とか、言っている本人も訳の分からない殺し文句を言い、ルーシーを預けた。(た)は洗面所にルーシーをしばらく「雪隠詰め」にしたのだが、結局ダメだったらしい。
 お母さんだって寝坊することはあるんだからさー。さっさと済ましてくれよ〜。