アニーちゃん

 昨日の夕方、玄関を出たところで、ご近所に住むシェルティ、アニーちゃんの飼い主さんと出会った。見れば、アニーちゃんを腕に抱えている。なんだか元気がない。飼い主さん曰く「いよいよダメみたいです」。
 先週会った時は、アニーちゃんは少なくとも自分の足で歩いていた。「寒い時期は排泄を限界まで我慢するけれど、このところ時々失敗してしまう」「水もあまり飲まなくなった」「食欲が減ってドッグフードを食べなくなった」と仰っていた。(あ)はヤギミルクを勧め、アニーちゃんに「元気になってね」と声をかけた。ルーシーが手術後一時、水も飲まなくなり、ヤギミルクを与えた経験があったからだ。
 昨日は暖かかったのに、アニーちゃんは地面に立つと体が小刻みに震えていた。前足が不自然なかたちでクロスしてしまう。痛みはないそうだが、抱き上げるまで体は震えていた。食欲はおろか水さえも、飼い主さんが手ですくって与えない限り飲まなくなって、獣医さんから毎日栄養点滴を受けている。獣医さんから、できるだけ好きな物を与えるようにと言われたけれど、アニーちゃんは口にしようとしないという。
 アニーちゃんは14歳半。人間でいえば90歳に近い。豆シェルティともいうべき小柄な体で、これまた小さな耳がピンと立ち、黒いビー玉のような目をした、可愛らしいワンちゃんだ。飼い主さんの側で、いつもおとなしくしているので「アニーちゃんはルーシーと違って賢いなぁ」と言うと、飼い主さんは「アニーは嫌いな犬だとものすごく吠えるんです」と教えてくれた。どうも同じ筋に住むワンちゃんとは相性が悪いらしく、家の前の道を互いが通る度に吠え合っているらしい。
 刺激を与えて少しでも元気になってくれればと、飼い主さんはアニーちゃんを抱いて近所を散歩することにしたそうだ。ルーシー以外にも、すぐ側に仲良しのワンちゃんがいるというので、一緒にその家を訪ねることにした。アニーちゃんは友達のワンちゃんと会うと、鼻を合わせて挨拶し、少しではあるが軽やかに歩いて見せた。 
 思えばアニーちゃんは、ルーシーが我が家にやって来て最初に仲良くなったワンちゃんである。まだ公園にも行けなかった頃、庭で運動をさせていたら、アニーちゃんと飼い主さんが通りかかった。ルーシーは、頭がおかしくなったのかと思うほど興奮して飛びつき甘え、その側でアニーちゃんは静かに苦笑しているように見えた。今でもルーシーは、二人の姿を認めるや、リードをグイグイ引っ張って近づき、鼻を鳴らして甘えている。
 以前(あ)がアニーちゃんの体を撫でていたら腹部に硬いものを見つけた。訊けば腫瘍だそうで、治療には手術が必要だという。幸い他に症状がないという。既にアニーちゃんは老齢期に入っていたので、手術は負担が大きすぎると判断されたようだ 
 飼い主さんは既にリタイヤされており、時々ボーイスカウトのお手伝いをされている。その関係でキャンプや旅行に出かけることもあるが、これまで大抵の場合はアニーちゃんも一緒だった。昨年、梅雨の時期に「しばらく見ないなぁ」と思っていたら、車で北海道に出かけておられたそうだ。車での旅行では、アニーちゃんは車の中で寝かせることが多いので「車のエアコンには、フィルターが付いているものを選ばないといけないよ」と、笑いながら勧めてくださった。
 アニーちゃん、飼い主さん、私はお二人の姿を見るたび、一緒に過ごした時間だけ、お二人の関係が深いことを感じます。また、アニーちゃんの笑顔を見るたび、幸せなのねと感じています。お互いをいたわり合う優しい関係と時間が、少しでも長く続きますように願っています。