我を忘れる時

 朝から大雨。ルーシーは、家の中でなんとかNo.1だけは済ませたのだが、No.2だけは頑として拒んでいた。雨の勢いが弱まってきたところで、ルーシーにレインコートを着せ、自分は(た)の長靴を着用して外に出る。
 とりあえず、急いで最寄りのバス停近くの植え込みへ。ところが、ツナギ仕様のレインコートを着用させたものだから、踏ん張るたびにお尻のあたりの生地がひきつれて違和感を感じるらしい。何回も場所を変え、背中を丸め踏ん張ってみせるが、肝心の用を足す前に「なんか変」と立ち上がってしまう。その間、こちらは「ウンウン、ウンウン」と呪文を唱えながら雨の中を待たなければならない。
 ルーシーは、本来体が濡れることを極端に嫌う。体が濡れたら「お母さんのせいで、私は濡れた〜!!」と、こちらの体に濡れた頭をすりつける。(た)が抱いて川岸に近づくと、前足の爪が白くなるほど(た)の背中をギュウウウと掴む。散歩中、道路に水たまりがあれば、わざわざ避けて通る。
 なんとか用を足して家に戻ろうとしたら、雨の中を野良猫が歩いていた。猫を見つけたルーシーは、体が濡れるにもかかわらず突撃開始。こちらは傘をさしていたので、視界が狭く猫の存在に気が付かなかった。サイズの合わない長靴を履いていたところに、いきなりリードを引っ張られ、あやうく転倒しそうになった。慌ててリードを引っ張って「ルーシー、ノー!」と注意するが、ルーシーは本能全開で聞く耳を持たず、さらに猫を追いかけようとする。何回も飛びかかるようにリードを引っ張り、その度に引き戻され、結局二人ともびしょぬれ。何のためにレインコートを着せたのやら。
 ちなみにルーシーは、庭のホースから噴出する水も大好きだ。ジョーズのように口を開け、相手を捕まえようとする。びしょぬれになっても、地面に伏せて噴出口を見つめ集中している。これも本能全開の瞬間なのだろうが、本能に火がついたら嫌なことも忘れるということか?実は、単に相手が水だということを理解していないだけかも。