ルーシーの耳

 ルーシーは耳が良いんだろうか?最近になって疑問になってきた。
 ルーシーは、子犬の頃から自分の食器が出す音を聞き分ける。食器はステンレス製。ルーシーは自分が玄関先に居て、こちらの姿は全く見えないはずなのに、(あ)が食器を台所の配膳台に置くと鼻を鳴らす。ちなみに同じステンレス製の鍋を配膳台に置いても反応しない。人間の耳には、これらが出す音は全く同じに聞こえる。一体何が違うんだろう?
 (た)や(あ)が車で出かけるのも分かるらしい。駐車場の扉を開ける音とか、車のエンジン音に反応している訳ではない。ルーシーには見えないところで、こちらが車のキーを掴んだ瞬間に「お出かけ?私も行く」と騒ぎ出すのだ。ちなみに、キーに音のでる物はついていない。こちらも気取られないように、そーっと手を伸ばしてキーを取り上げている。
 その反面、簡単な音は聞き分けられないようだ。
 たとえば玄関チャイム。我が家の機種は親子になっているので、玄関チャイムは一階と二階で鳴る。相当な年代物で、なぜかエコーがかかる。ところがルーシーには、他の玄関チャイムと区別がつかないようなのだ。テレビ番組の中で玄関チャイムがピンポン。確かに似た音だけれどエコーはかからない。音がする方向も違う。それなのに、ルーシーは耳をピンと立てて玄関先に出ようとする。
 そしてコマンド。先週から家の中で少しずつ「ベッグ」の練習をしている。壁にルーシーの背中を付けるようにお座りをさせ、フードを頭上にかざして「ベッグ」と声を掛ける。後ろ足だけで体を支え、前足を床から離してフードの方に首を伸ばしたら「ベッグ」と声をかけ、クリッカーを鳴らし褒める。教科書どおりにやっているのだが、これがなかなか上手くいかない。
 ルーシーは座ったまま体の向きを変えて、壁から背中を離し立ち上がってしまう。そして後ずさり。
 「壁に背中をつけると、逃げられないじゃん。お母さんは何か嫌なことをするの?それにお母さんの『大丈夫だから』は信用できないし〜。」
 元来体を触れるのが嫌だから、ルーシーがそう考えるのも、もっともだ。(実際「大丈夫だから」という時は、ルーシーにとって「大丈夫でない」ことばかりだ。)しかしオマエはゴ○ゴ13か!!壁に背中をつけさせるのは、ルーシーの後ろ足は体を支えられるほど強くないから。まず技の内容を覚えるまで支えを作ってやろうと思った、それだけのことだ。じゃ、好きなときに逃げられるように廊下の真ん中でやろう。
 ところがルーシーは直ぐに立ち上がって、あとずさり。こちらはフードとクリッカーを手にジリジリと前に進む。なかなかクリッカーを鳴らせずイライラする。
 「ルーシー、ベッグだよ!」ちょっと、こちらの声のボリュームが上がる。すると、ルーシーは満面の笑みで「バック」をしてみせた。
あ〜、そういうことか!!バックとベッグの区別がつかなかったらしい。 それなら古式ゆかしいコマンドを使うとしよう。コマンドは「チンチン」だ。