冷凍・解凍

 いろいろ考えるはずが、全く考えがまとまらず月曜日を迎える。あれから手持ちの文献を見てみたが、やはり本には「犬に決して罰を与えてはいけない」とあるなぁ。でも先生の仰ることも分かる。あとは自分がどちらを選ぶかということだろう。
 鬱々と考えていたら鬱々とした天気。いかん、いかん。このブログはアホアホ・ルーシーとバカッ晴れのイメージでなくちゃ。という訳で、土曜日のできごとを一つ。
 ルーシーが現在通う教室は、ホームセンターの一角で売り場と地続きだ。ドアや壁はなく、単に床に敷かれた緑のカーペットだけが教室と売り場を区別している。だからダンスで踊っていると、こちらの姿は、店内にいるお客さんに丸見えだ。ダンスの音楽が流れると、熱帯魚の水槽やドッグフードの棚あたりから、顔を挙げてこちらを見ていることがある。
 一番多い教室への闖入者は、テケテケ歩きの子供である。こちらが何をしてようと、躊躇することなくルーシーを触ろうとやって来て驚かされる。多くの場合は保護者が慌てて追いかけて子供を捕まえるのだが、中には、まるで安心しきった様子で、自分の子供や孫が見知らぬ犬に触るのを見ている人もいるから怖い。大体の場合、ルーシーは自分に近づく人をじっと見つめるだけだが、相手が自分に好意を持っていると理解して飛びつきチューなどカマしたら、3等身半くらいの体は吹っ飛んでしまうだろう。
 先週土曜日の授業で闖入してきたのは立派な大人、おっさんだった。
 おっさんは、そり込み入りのパンチパーマに口ヒゲ。某有名スポーツブランドのメッシュ・シャツと短パン、ごっついゴールド・チェーンのネックレス、サングラス、サンダル、セカンドバッグという格好で現れた。見るからに、そっち方面の人である。通常ルーシーはサングラスを着用している人には自分から近づかないのだが、この日はサボリの口実を探していたのだろう。ダンスの途中で(あ)の指示を突然無視して、おっさんに近づき正面でお座りをして見せた。
 口には出さなかったが、(あ)は内心「ヒィィィィ〜」と叫んでいた。オマエ、相手を選んでくれよ!!
 おっさんに飛びつきチューでもして、ケガをさせインネンをつけられたらどうしよう!慌てて「すいません、この子は人が大好きで、飛びつき癖があるんです。」と言う。とりあえず、こっちは警告はしたんだからな。ケガしても、こっちにインネンつけるなよ!その一方で、ルーシーに声をかけ呼び戻す。フードをちらつかせて、ルーシーの注意をダンスに戻そうとする。慌てて周囲を見渡し(た)の姿を探したが、こういう時に限ってヤツはいない。ええい、役たたずめ!
 ルーシーの首根っこを掴んで連れ戻そうとしたが、体が恐怖で硬直して動かない。冷や汗をかきながら「ルーシー、飛びついたらダメよ」と指示を出す。すると、ルーシーはおっさんの足元でゴロンとお腹を見せた。
 すると、おっさんは慣れたスタイルでしゃがみ込み、「オマエ、飼い主より俺の言うことをきくんか」と、ルーシーのお腹をTシャツの上から掻いた。サングラスで目は見えなかったが、口元が緩み、まんざらでもなさそうな表情だ。
 おっさんは、ひとしきりルーシーを撫でて去っていった。あ〜、ビックリした。ルーシー、オマエには、甘えて良い相手と悪い相手が分からんのか?頼むから相手を選んでくれよ。お母さんは寿命が縮まったぞ!
 後で(た)に説明したら「そりゃ、ルーシーには分からんな」と大笑い。やれやれ、冷凍・解凍されたような気分だぞ。