ルーシーの朝練

 窓を開けて寝ていたので朝方の冷え込みで目が覚めた。せっかくなので早い時間にS公園へ。数日ぶりにソフトボールのおじさんに出会う。
 おじさんは、二塁あたりからライト側フェンスに向かって投球練習をしているので、邪魔にならないように、ルーシーには三塁線からレフトに向けてボールを投げている。ひとつは、三塁線あたりは日が当たって乾いているから。外野は日の当たる時間が短いせいか雑草も多く朝露で濡れているし、奥に行けば行くほど土が粘土質になる。三塁線では「きなこまぶし」になることは間違いないが、走らせていただけるだけありがたい。
 飼い主の気持ちを全く察することなく、ルーシーは他に誰もライバルがいないとなると、ボール遊びをしても気が乗らない。ボールを確保して、わざわざ雑草の中まで行って腹這いになり休憩する。時間とともに休憩回数が投球数と同じになってきた。グラウンドは日が当たると直ぐに熱くなってしまうから、休んでいるヒマはないぞ。暑くなる前に疲れてもらわないといけないんだから。
 (あ)のグチが耳に入ったのだろうか。突然おじさんがルーシーに向かって近づき、手を出して「ボール、ちょーだい」。ルーシーはボールを盗られると思い、休憩を切り上げ、慌ててボールをくわえて(あ)の方へ。
 手元まで持ってきたのを褒めて、再度ボールを投げようとしたら・・・ルーシーが地面に伏せている後ろで、おじさんがグラブ片手に守っているではないか!
 「あの〜、私は投げるのが下手なので(ボールが)どこ行くか分かりませんよ」と断り、二・三塁間奥を狙って投げる。それまで、全くやる気のなかったルーシーは猛然とダッシュ。なんと肩越しにライナー性のボールをキャッチして見せた。おじさんは大きな声で「上手いなぁ。チームに入ったら?」
 ところが、ルーシーはボールを確保したらセンター辺りの草むらへ。すると、おじさんは再び歩み寄って「ちょーだい」→ルーシー、ボールをくわえ(あ)の方向に走る。
 申し訳ないので、ボールを投げる方向をルーシーより心持ちおじさん寄りにする。それでも競争ではワンコには勝てない。「いやぁ、僕のトレーニングにもなるから」と、おじさん。「しかし、上手いなぁ。阪神タイガースに入ったら?」・・・お世辞にもほどがありますって。
 これまでのルーシーは、おじさんを若干警戒していた。相手が自分のストライクゾーンから外れているせいなのか、左手にはめたグローブが怖いのか、グローブにボールをパシンパシンと当てる音が怖いのか、はたまた投げたボールが壁に当たる音が大きく反響するせいなのか?なぜだか自分から甘えに行こうとしなかった。ボールを盗られるとも思っていただろう。それでもボール遊びを通じて、「どうやら、この人は自分と遊んでくれるらしい」と理解できたようだ。
 公園を離れる前に(あ)がおじさんに「ありがとうございました」と挨拶したら、ルーシーもおずおずと自分から近づいて、おじさんの手を舐めた。「あ〜した〜」って感じ?
 礼に始まり礼に終わる。これスポーツの基本やね。