十字靱帯の断裂について 2

前回は、主に膝関節における十字靱帯の機能と靱帯断裂の原因・診断・手術について書いた。海外のサイトで提供されている情報で、獣医・動物病院と飼い主の双方が共通しているものだ。今回紹介するのは、この問題に対する、双方の異なる意見と認識である。各項に付された(D)と(O)は、それぞれ「獣医・動物病院」と「飼い主」を示す。

(1) 触診での診断は、必ずしも正確ではない。(O)
 注意していただきたいのだが、この飼い主さんは触診を全否定されているのではない。触診がどの病院でも利用可能で、かつ最も信頼できる診断方法であることは認めておられる一方で、飼い主側が心に留めておかなければならないことがあるという。
それは「犬種や個々の犬によっては、膝関節が比較的緩いかもしれない」、「犬種を問わず、生後18ヶ月までの子犬は膝関節が非常に緩い」、「実際に誤診が多い」「触診により、損傷が広がる可能性がある」ことだ。誤診の極端な例では、ノミが介在する病気により犬が足を引きずり、靱帯に問題があると診断される。触診の結果、靱帯断裂と診断されたら、即手術を勧められることが多いので、大変な間違いにつながる可能性がある。
また「損傷が広がる可能性」は、触診中に獣医が患畜の膝を引っ張ったり、捩ったりすることで症状が悪化する、また、すでに損傷を受けた膝関節の中で半月板や他の部分に負荷を加えることで傷つく可能性があるということだ。「引き出しの動き」を確認するにしても、犬の足を単純に動かし患部を優しく扱うことで確認できるものではない。しかし必要以上に負荷をかけたり、乱暴に扱われたりする可能性は否定できないから、触診の時には必ず飼い主が立ち会うべきだという。
時に獣医が「麻酔した上で触診をしたい」と申し出るかもしれない。麻酔をしないと犬が筋肉を緊張させてしまい膝の動きを正確に捉えられないと。この飼い主さんは「私なら麻酔をした上での触診は許可しない」と言う。麻酔にはリスクがつきものだし、麻酔でより正確な診断ができたところで、治療自体が良くなる訳ではないから、意味がないのだという。

(2) 外傷による靱帯断裂の場合、外傷を受けて数日〜一週間の間に手術をしないと、その後に手術をしたとしても、関節の変化は元に戻せない。(D)
 これに対して、ある飼い主さんは「まずは、従来の治療を選ぶべきだ」としている。犬の運動を慎重に制限し回復の兆しを待つ。走ったり、ジャンプをしたり、長時間の散歩や、膝関節にストレスを与えるような運動を避ける。「6〜8週間を経て回復の兆しが見られない場合にのみ、手術をすべきである」と。
 一方、上記の病院は、体重30ポンド超で靱帯を断裂した犬について、従来の治療法(運動制限・体重管理・鎮痛剤投与)を用いた場合、事故後49ヶ月を経て、膝関節の状態が正常である、または改善が認められると診断された犬は、わずか19%にすぎないという。

(3) 一方の足の前十字靱帯を断裂して、一年半の間にもう一方の足の靱帯を断裂する犬は、20〜40%に上る。(D)
 人間でもそうだが、一方の足が痛ければ、これをかばい反対側の足に頼りがちだ。だから反対側の足も傷めることは、考えられないことではない。また上記の病院は「手術をしても膝の損傷から関節痛は起こる。ただし手術をした場合には、しない場合に比べて、その程度は低い」という。

(4) 手術が最善の治療法である。(D)
 靱帯の損傷・断裂は外傷だけでなく、コラーゲンの劣化など老化によっても、起こりえることであり、犬の寿命が延びている今日、これらの問題は、大型犬やより活動的な犬種に限られたことではない。そのことから、獣医・動物病院は、年齢や原因を問わず、すべての犬種を念頭においていると考えるべきだ。一方、飼い主側は自分の犬に焦点をおいて情報や意見を述べがちなので、その点で両者の前提は異なる。高齢犬が靱帯を断裂したとして、自然治癒を期待するのは難しいかもしれない。「それならば手術を」と考えるのも間違いではないだろう。
 一方、ある飼い主さんは言う。「手術をする、しないに関わらず、膝を安定させるのは、新しく形成される補助組織である。従来の手術は一時的に膝を安定させるけれども、治癒した膝関節を最終的に安定させるのは補助組織なのだ。非常に少ない例外を除いて、靱帯を完全に修理し、または恒久的に利用できるものと交換する手術などない」


 アイタタタ、頭の中を整理するつもりが、ますます分からなくなってきた。次回は、ルーシーが係っている獣医さんの話を紹介したい。