最近になって、ルーシーは大きな声に敏感になったと思う。子犬の頃は声を嗄らして呼び戻しても、耳に入っていなかったし、怒られても「?」という顔でこちらを見上げていた。大きくなって、少しずつこちらの態度に注意を向けるようになり、理解できるようになったら、言葉ではなく声の大きさやトーンで反応するようになった。
 音楽に合わせる練習中、ルーシーの動作が遅れて、つい声が大きくなる。音楽は進んでいってしまうし次の動作に入らなければならないので、こちらは焦る。つい「ターン」「ターン」「ターン!」と言うと、耳を倒して伏せてしまった。それ以降は「立って」と促しても、動こうとしない。音楽なしで練習をして間違えた場合は、怒るまいとしているから「違うよ〜」と声をかけていた。同じ間違いの指摘でも、相手が受ける印象は大きく違うだろうなぁ。
 「もう怒ってないから」と言い体を撫でて反省。こんなんでダンスになるんだろうかと、気持ちが沈む。家の中ならともかく、知らない場所でこちらの指示に集中させるのは至難の業だ。前日から絶食させてハラペコの極限状態にさせない限り、ムリなんじゃないだろうか?こっちだってアップアップなのに。焦ったら、絶対大きな声を出してしまうだろうと、自分でも思う。そして最悪の場合には、舞台の上でストライキということになる。
 低い大きな声を出すと怒られると勝手に思ってしまう。ダンスをしていた時「ヨシッ!」を大声を出したら「ゴメンナサイ」と伏せて見せた。
 「ヨシッ!」はA先生が使っておられる褒め言葉。どちらかというと声は低い。シは"sh"に近いかな。気合いを入れてお腹から「ヨシッ!」というと、声は低くなる。これを聞くとパートナーの青空ちゃんは、俄然やる気を出して、スピードが上がる。ハンドラーの気合いがパートナーの犬に伝わる瞬間だ。
 怒られたと勘違いして伏せていたルーシーが、ようやく促されて立ち上がった。ツイテの位置につかせる。先生のマネをして、(あ)も「ヨシッ!」と言ってみた。すると、ルーシーは「え?何?」「何がいけないの?」と立ち止まってしまった。ハンドラーが気合いを入れても、パートナーに全く伝わらないのが見える瞬間だ。ダメだ〜、こりゃ〜。
 気合いを入れるってのも、相手によるんでしょうかね?