少しずつダンスの練習を始めたものの苦戦続きである。というのも、担当のA先生には「今回はハンドシグナルを極力少なくしましょう」と言われたからだ。これまでいくつか技を教えてきたけれど、言葉でコマンドを出すのに加え、ハンドシグナルも出して指示してきた。だから指示は言葉だけとなると、ルーシーの反応速度にはムラがあるし、指示されていない動作を見せることもある。
 予想通り一番間違えるのは、ベッグとバック。どうも言葉だけでは、コマンドの区別ができないらしい。そこで「おすわり→ベッグ」「立って(もしくは立っている状態で)→バック」とヒントを出して教えている。これもズルだけど。ところが「おすわり」にしても「立って」にしても、ルーシーはコマンドに従うクセに、これには無意識に反応しているようだ。自分が今どんな姿勢でいるのかを意識していないらしい。だから「おすわり」の状態から「ベッグ」と声をかけても、わざわざ立ち上がって後ろに下がったりする。
 おまけに新技「イェ〜イ」を教えたので、完全に混乱してしまった。「イェ〜イ」は、おすわりの状態で片手を顔付近まで挙げ、肉球をこちらに向けるというもの。ルーシーの頭の中で、「イェ〜イ」の動作とコマンドが完全につながっていない。「おすわり→ベッグ」と指示すると、一旦立ち上がって後ろに下がり、こちらが「違うよ。おすわり」とやり直しを命じると、今度はベッグの指示を出す前に、ルーシーは「じゃ、これですか?」と片手を挙げてしまう。むむむ〜。
 「違うよ」と言われると、ルーシーも焦るらしい。アウアウと抗議の声を上げ、最後は「ごはんを下さい。死んでしまいます〜」と言わんばかりにフフフフフと鼻を鳴らす。言葉だけでコマンドを出されているんだから、余計な雑音を出すと聞こえないし失敗するのに。そして最後には両手を挙げて、こちらに「お代官様〜!お慈悲を〜!」とすがってくる。時代劇か!
 ハンドシグナルを出さないだけで、今まで教えたことも、こんなにガタガタになるとは。そして、その度合いは、教えたのが昔であればあるほど大きい。一からやり直して、練習をしないといけないなぁ。
 また、もう一つ大きな課題がある。時間差で人間と犬が同じ動作をする部分だ。例えば、(あ)がおじぎをした後に、一拍置いて犬がバウをする。
 「バウ」は、こちらがお辞儀をしながら「バウ」と声をかけて教えてきた。だから、この場合「立って→キープ」で立った姿勢を保たせておいて、頭を下げ、頭を上げたところで「バウ」と声をかける。ところがルーシーは、(あ)の頭が下がると無意識に自分の頭も下げてしまう。自分が立っている姿勢を意識していないこと、キープというコマンドの理解が甘いこと、無意識に頭を下げる習慣がついてしまっていることが原因だ。という訳で、両者向かい合ってニラミ合いながら、ジワジワ頭を下げる妙な練習を繰り返している。
 もう一つの新技「クリープ(匍匐前進)」は、回数を制限して教えている。詰めて教えると、肘や関節を痛める可能性があるからだ。これが言葉だけの指示でできるようになるには、相当時間がかかるだろうなぁ。
 「ベリーアップ」は、ゴロンと横になるスピードが速すぎて一回転してしまうことが多い。この技はお腹を上にして横になるもので、いわゆる「死んだフリ」である。アジル君のように綺麗に体が真っ平ら、左右対称にならず、ルーシーのはなぜかクネッと腰が曲がってしまう。ヒドイ時は、一方の手が伸びて「シェ〜」になる。全く死んだフリには見えない。
 どれもこれも練習しないと、とてもじゃないが合格点はもらえない。小さなことからコツコツとやるしかないか。それにしても道のりは遠いなぁ。