ワンコの一念

 昨日のことである。早朝のニュースで電車が全線ストップと知った(た)は「遅れる訳にはいかん」と慌ただしく『けっこう毛だらけ号』で会社へ。その時ルーシーはクレートの中だった。(あ)がルーシーの朝食を用意してリビングを片付ける間、ルーシーをクレートで寝ていることが多い。この日も、寝ているはずだった。
 ところが、実際にはバッチリ目が覚めていたらしい。クレートから出たルーシーは、いつもなら「お尻揉んで〜」と来るはずが、この朝は玄関先へ。外の物音に聞き耳を立て「おかしいなぁ、車の音がしたはずなんだけど。」としきりと首を傾げていた。
 門を出て朝の散歩に出かける。駐車場の前を通りかかると、車の姿がなく駐車場の隅にバリケンが置かれていた。こちらが「さすがにバリケンを積んだ車で会社には行けなかったのね」と笑っていると、側でルーシーはショックを受けていた。知らないうちに置いていかれたと思ったらしい。
 とりあえず一回目の排泄を終えると、なぜかルーシーはUターンして家に帰ろうとする。(た)が戻っているかもしれないから、ということらしい。「ルーシー、お父さんはお仕事だよ。」と言い聞かせるが、この後も何回もストライキを起こして道に座り込んでいた。
 日中もルーシーは起きていた。(あ)は日中2階を掃除していて、新型掃除機のバリバリ音でルーシーが起きていたのだと思っていたけれども、実は(た)が車で戻ってくるのを待っていたらしい。
 夜、ハミガキを終え、廊下でひっぱりっこをして遊ぶ。その間も、時々玄関先へ向かって聞き耳を立てていた。リビングで(あ)と一緒にゴロゴロしていると、(た)が車で帰宅。途端にルーシーは満面の笑顔を浮かべ、飛びつきチューで熱烈歓迎。(た)が家の中で動き回ると、くっついて回る。嬉しくて口が耳まで裂けていた。
 3人でテレビを見ているうちに、ルーシーは眠くなってきたようだ。(た)に「ルーシー、もう寝なさい」と促されても、それまで放り出していたボールを噛んだりして「いえ、私は忙しいんです。眠くありません。」「ルーシー、もうネムネムじゃんよ」と言われてもヘラヘラ笑いを浮かべている。白目が若干充血して、とても眠そうだ。
 とうとう(た)が少し強い調子で「ハイ、ルーシー、もう寝なさい」と言うと、ルーシーはようやく立ち上がり、再び玄関先へ。どうやら自分が監視していないと、車が逃げてしまうと思ったらしい。最後は(た)が廊下でルーシーをなだめすかして、クレートに入れた。
 この2日間ほど雨が降って外で遊ぶこともできず、退屈だったのだと思う。(た)は仕事が忙しく、ルーシーとふれ合う時間もなかったし。それにしても、ルーシーは自分が車に乗せてもらえなかったことを、朝8時から夜10時まで覚えていた。げに恐ろしきは、ワンコの一念。そのうちペダルに足が届くようになるのではないだろうか?

 【追記】
 ちなみに今朝(た)が家を出る時、ルーシーは玄関先で「うらめしや〜、車に乗せろ〜」と睨んでいた。