ちゃんと

 前回の授業で復習していたら、先生に「ルーシーには『ちゃんと』ってコマンドがあるんですね」と笑われた。
 たとえば、前でお座り等、今までに覚えた技や簡単な技をさせるとする。ルーシーは次の技が何かを覚えているから、真正面に正対するのではなく、斜め前の動き易い位置に座ろうとする。ゴロンやロールもそうだが、「伏せ→回転→伏せ」と、一つ一つの技をきちんと完成させるクセをつけなければダメだ。全体がだらしなくなり、「もしかしてダンス?」てな印象になってしまうからだ。
 ズボラなルーシーが手抜きを覚えたので(本人に、その自覚があるかどうかは不明だが)、こちらは簡単な技をさせるにも苦労する。そして、いい加減にしてきたツケに、今になって苦しんでいる。 
 フリスビーをしていても、ルーシーは当初、手元までディスクを持ってこなかった。ディスクをくわえて戻ってくる最中に「次が来る。早く隠れなきゃ」と思っているらしく、ヒドイ時は(あ)から10歩近く離れた場所にディスクをポンと放り出して行ってしまう。以前、ディスクの達人に「ディスクを手元まで持って来るのは、半分は服従ですから」と言われ、ムムムと唸ってしまった。そこで「ちゃんと(持ってきて)」と何回も促していたら、10歩は7歩になり、7歩は3歩にまで縮まった。相変わらず手渡しはしてくれないけれど。

↑毎回、こういう不毛な会話をしています。トホホ

 予想外だったが、ルーシーは「ちゃんと」のコンセプトを理解し始めたらしい。斜め前に座ったところ「ちゃんと」と言われると、小さな声で「アウ」と言いながら、お尻をズリズリっと動かして、正対するようになった。
 これには正直驚いた。なぜなら「お座り」とか「伏せ」のように具体的に特定の動作を要求するコマンドではなく、非常に抽象的な概念だからだ。
 そういや、普段の生活で「ちゃんと」の他にも、ルーシーには、かなり抽象的なことを言ってるなぁ。「良いの?」とか「どうするの?」とか、具体的に「○○しなさい」と言わないことが多いのだ。以前、あるトレーナーさんに「具体的に言わないと、犬には分からないよ」と注意されたこともあったっけ。しかし、これは(あ)の悪いクセらしく、なかなか治らない。そうこうしているうちに、ルーシーの方が理解するようになってきた訳だ。これには一瞬「ルーシーって、私が思う以上に賢いかも」と思ってしまった。
 しかし、だ。よくよく考えてみると、他のワンちゃんには「ちゃんと」なんて言う必要はない。なぜルーシーに「ちゃんと」と言わなければならないか?コイツが、ちゃんと指示された通りに動かないからではないか?ちゃんと動いていたら、「ちゃんと」なんて言われなくて済むのに。
 ・・・親バカで目が曇るところだったぞ、危ない、危ない。