やっさん降臨

 「結構毛だらけ2号」に乗せた最初の日、ルーシーは違和感でストレスを爆発させた。キャリーの中でいつも以上に激しく動き回り、レインコートのストラップを噛みちぎり、キャリーごとバックドアへとズルズルと動かしていた。それ以外の時間は、ワンワン吠えている(これはいつものこと)かと思ったら、次はアウアウ言いながらプラスチックの床を掘るマネをしていた。わずか15分のドライブで2回も路肩に寄せて服を脱がせたり、キャリーを直したり。ルーシーは運転中に静かになると、必ず悪さをしている。セダンの1号とは違い、ハッチバックの2号では、キャリーは手を伸ばして触れる距離にはない。その後も(た)は、うっかりリードを着用させたままルーシーをキャリーに入れてしまい、プラスチック製のバックルを破壊され、食べられてしまった。
 いつもと違うことが、ルーシーにとって、これほどのストレスになるとは。(あ)自身も新車に面食らうことは多いけれど、コイツほどではない。ルーシーが家の中にいて(た)が駐車場の扉を開ける音を聞くと、鼻を鳴らすけれど、エンジン音を聞いたら静かになった。1号と違うと分かって「連れてけ〜!!」と吠えて訴えることが少なくなった。
 そして土曜日。車で教室に向かったところ、相変わらずグルグル、ワンワンは続く。静かになると、手の届かないところで妙な物を食べる等、悪さをしているということだから、ウルサイ方がマシかも。そう自分を慰めるしかないのか。タメイキをつきながら、時折「ルーシー」と声をかけ「悪さしたら許さんぞ」とガンをとばす。
 高速で初めてETCを使うことにした。二人ともETCを使ったことがないので、入り口が近くなると自然に静かになり息を潜めた。ゲートをくぐると「料金ハ150円デス」の音声。「おおお〜、ETCやぁぁ」と感動。
 ・・・妙に静かだ。ん?ルーシーは?
 助手席から振り返ると、ルーシーはバックドア側を見ているらしく、お尻しか見えない。「ルーシー?」と声をかけると、ゆっくりとこちらを向いた。そして、顔の表情は・・・
 満面の笑み。
 1号はETCがなかったので、一般のゲートで料金を支払っていた。当然、隣のゲートをETC車が抜いていく。ルーシーは、その車たちに向かって激しく吠えていた。1号の時代から、ルーシーが運転中にワンワン騒ぐのは、やっさんが取り憑いていて、飼い主の運転がトロイと怒り「抜かんかい、まくらんかい」」と訴えているのではないかと冗談を言っていた。「クレートがなかったら、後部座席から殴られるで」と笑っていたのだが、どうやら冗談ではなかったらしい。
 師匠。頼むからルーシーに取り憑かないでやってください。頼みますよ、ホント。