卵焼き

 この週末にヤボ用で東京に行き、短時間だったが友達にも会えた。この年になると、友達に会うことすら難しい。皆それぞれに家庭やら仕事やらで忙しい。突然連絡したにもかかわらず、都合をつけてもらえた。ありがたいことである。
 帰阪する前にデパートでお土産を購入。チラチラと売り場を見ていたら、厚焼卵焼きなるものを売っていた。ちょっとしたお弁当箱ほどのサイズ。あまりに大きいので買おうか買うまいか悩んでいたら、こちらが訊かないうちに、売り子さんが「この卵焼きは甘くて美味しい」と説明してくれた。ヒョウ柄の服は着ていなかったけれど、関西人だと見破られたらしい。
 (あ)の母が作るお弁当には、必ず卵焼きが入っていて、それは甘かった。関西では「だし巻き」が主流だが、関東の卵焼きは甘いらしい。北海道出身の母が、どうして関東風の甘い卵焼きを作るのかが常々疑問だった。「おばあちゃんが作る卵焼きが甘かったの?」と訊くと、母は少し考えていたが、祖母は母が小さい頃に亡くなったので「お弁当を作ってもらった記憶がない。それでも北海道は関東の文化の影響が強いから、卵焼きも甘かったんじゃないか」という。
 一方、神戸にある(た)の実家では、おせち料理の中にだし巻きが入る。義父は神戸出身なので、おそらくこれは神戸の文化なのだろう。以前、御馳走になった時、義父が焼いたものだと聞き大変驚いた。キレイな形に整っていて、全くスが入っていないし、巻き簀を使った様子もない。思わず「上手ですねぇ」と言うと、義父は嬉しそうな、恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
 義母は「お父さんは(準備も後片づけもしなくて)焼くだけだから」と笑っていたが、だし巻きをキレイに焼くのは難しい。油臭さを出さないために、始めは強火で焼き、その後は直ぐに弱火に変え、かなり気長に焼かなければならない。(あ)はイラチなので、卵を流し込んだ後で空気がプクプクと泡になると、菜箸で突いて潰してしまう。そうしてムラになったところに、さらに卵を流し込むので、出来上がりの形は悪い。形を整えるのに巻き簀を使うので、だし巻きの外側に巻きすの跡が付く。かなりムリヤリの出来になる。
 春になると、義父のことを思い出す。桜の頃に亡くなったせいかもしれない。「年々歳々花相似、年々歳々不人同。」会いたい人には、先のばしにせず、思いついた時に会っておかなきゃいけないなぁ。家に戻り厚焼きの卵焼きを頬張りながら、ふとそんなことを考えた。




「年々歳々花相似、年々歳々不同?」