陽性でない強化〜”DON’T SHOOT THE DOG!”

緩和したものの依然残っている問題は、ルーシーの「引っ張り癖」だ。子犬だった頃、ルーシーは、布製のハーフチョークのカラーを付けていた。チェーン製の方が良かったが、首が細かったので、突然引っ張った時にカラーがスポンと抜けてはいけないと、布の物を選んだ。これで引っ張り癖が治るかと思ったら、とんでもない。舌が紫色になり窒息状態を起こすまで引っ張り続けた。そこでジ○ントルリーダーを使ってみたものの、ルーシーは鼻面にハゲを作るまで引っ張り続け、結局普通のカラーとリードに戻した。引っ張り続けるのは変わらないが、少なくともルーシーは自分で自分の首を締めて死ぬことはないからだ。おかげで、こちらは腰と膝を痛め、靴は半年でお払い箱になったけれど。

今思うと、ハーフチョークを着用していた頃、興奮状態のルーシーは、家から一歩出た段階で自分の首を絞めていたと思う。家の中でカラーは着用していないから「カラーは首が絞まるものなんだ」と思っていたかもしれない。年齢が進むにつれて、ようやくこちらの声が少しずつ耳に届くようになり「ルーシー、引っ張らない。引っ張ったら、お母さんは止まるよ」と声をかけると、引っ張らないケースが増えてきた。ただし、大好きな人を見かけたり、遊び場が近くなったりすると、こちらの声なぞ聞こえないフリをして、頭を低くして這うような姿勢で引っ張り続けるけれど。

馬に左に向かって動くように指示する時、乗り手は手綱を握る左手を引く。手綱が一方に引かれると、馬の口もその方向に引かれて嫌な感じがするらしい。左への旋回が終わると、手綱は引かれなくなって嫌な感じが消える。嫌な感じが消えることが、陽性でない強化の”reinforcer(強化物・強化刺激)”なのだ。ラマは馬と同様に臆病な動物で、若いうちから調教を受けないと人になれないらしい。食べ物は非常に有効な強化物ではあるけれど、いかんせん人が近づくことを嫌う。だから、まず食べ物で服従させる前に、人慣れさせる必要がある。

そこでトレーナーは、ラマに「僕は30フィート以内に近づくけど、じっと立っていられるかい?OK、じゃあクリッカーを鳴らして、もっと離れた場所に行くよ」「今度は25フィート以内に近づくけど、じっと立っていてね。OK、じゃあクリッカーを鳴らして、もっと離れた場所に行くよ」というのを繰り返し練習するそうだ。この場合、ラマに「じっと立っていたい」と思わせる一番の強化物は、人が自分から離れて「嫌な感じが消えることだ」という。

陽性強化の強化物が相手に「キミのやっていることは良いよ。ご褒美がもらえるから、もっとやりなさい」と教える一方、陽性でない強化の強化物は「キミのやっていることはダメだ。止めないと嫌なことが起こるよ」と教えることになる。

だから、チョークチェーンを使わなければならない犬に対しては、いけないことをしている時に、まず「ダメ」と言って、一呼吸を置いてからチェーンを引っ張らないといけないそうだ。この一呼吸を置くことで、犬にチャンスを与えて、その行動を止めて、嫌なことが起こらないように選ばせることになる。警告を与えないで単にチェーンを引っ張る場合、これは単なる罰であって、将来の行動に何も効果がないばかりか、犬の指示に従いたいという気持ちを削ぐことになるという。また、犬を自分の元に戻す間もチェーンを引っ張り続けると、戻る行動についても罰を与えることになってしまうという。また、陽性でない強化の強化物を多用し過ぎると、犬の学習スピードは遅くなるそうだ。・・・なかなか難しいなぁ。

教室から共同購入の誘いを受けて、今度、チェーン製のハーフチョークを購入することになった。先生曰く「ダンスの時、着脱し易いから」ということだが、上手く使えたら良いなぁ。じゃなければ、お母さんは銃のライセンスをとるよ。