強化トレーニング2〜”DON’T SHOOT THE DOG!”

 またまた、シツコク本の紹介である。今回は、この本が今まで読んだ本と、どう違うかをお話しようと思う。実は、この本は犬のシツケ参考書ではない。人間の強化トレーニングが半分以上を占めている。だから、本を読みながら、犬に関係しそうなところだけ抜き出して紹介している。この作業に時間がかかって、なんだか間延びした紹介の仕方になってしまった。
 紹介の初回で、犬が一晩中庭で吠える問題に対して、8つの対処法があることを書いた。この問題と同じように、本の中では「ルームメートが汚れた洗濯物を至る所に放置する」「子供が車の中で騒ぐ」「ダンナ(または妻)が帰宅するといつも不機嫌」「テニスのスウィングが上手くできない」などの問題も例に挙げられている。
 思わず笑ってしまった例は、スカッシュに熱心な弁護士の話である。なかなか腕が上がらない弁護士に、強化トレーニングの話をしたところ、彼はこれを実践して、成果を挙げたという。その方法とは、自分に「良いぞ、俺!凄いぞ、俺!ガンバレ、俺!」と話しかけるというもの。すんごいアメリカ人ぽいと思う一方「なか○まきんに君か?!」とも思う。
 人間のことはともかく、著者によれば、家畜やペット動物はほぼ全てについて、強化トレーニングを施すことができるという。一方、オオカミ等の野生動物の場合は、トレーニングの開始時点で相手が子供であっても、なかなか成果は挙がらないらしい。ちなみに家畜やペット動物の中で、強化トレーニングが難しいのはネコだという。ゾウにフリスビーを教えるエピソードを紹介しよう。
 著者は飼育員の協力を得て、檻越しに若い♀のゾウにフリスビーを教えることになった。犬同様に、まずはレトリーブから始め、フリスビーを投げることまで教えた。
 フリスビーを与えられたゾウは、考え得るあらゆる遊びを試す。フリスビーを鼻で掴み、檻にぶつけて大きな音を出したり、床に置いて足で蹴ってみせたり。ゾウがフリスビーで遊ぶ姿は、まるで人間の子供のようで、知能の高さが窺えたという。
 ゾウがフリスビーを持ってきたら、著者は笛を鳴らして、ご褒美のおやつを与える。この練習を繰り返すうちに、ゾウはフリスビーを返すようになる一方で、檻から少しずつ離れた場所にフリスビーを置くようになり、檻の外にいる著者は、身を乗り出して拾わなければならなくなった。
 ゾウは、おやつをバケツごと全部手に入れたいがために、少しずつ著者を檻の中へと引き入れようとしていたのだ。著者は、ゾウの考えが読めたので、策略に乗らないことにした。するとゾウは鼻を延ばして、著者の腕を叩いた。飼育員と著者が大声で叱ったところ(ゾウに対しては、大声で叱るのは有効らしい)直ぐにきちんとレトリーブをするようになった。ところが今度は、著者が差し出したおやつを取ろうとしない。
 ゾウは、鼻先で著者の手の中にあるニンジンを触った後で、「リンゴやサツマイモの方が良いなぁ」と言わんばかりに、おやつが入ったバケツに視線を送ったそうだ。この時、著者がゾウのリクエストに応じたところ、このコミュニケーション方法を直ぐに会得したそうだ。つまり、まず相手とアイコンタクトをとり、欲しい物に視線を向けるようになったらしい。
 また、あるトレーナーがチンパンジーに食べ物を使って強化トレーニングを施していた。ある朝、屋内にいたチンパンジーは、与えられた餌を食べずに蓄えていた。トレーナーが「この子は、外で食べたいのかな?」と考え、屋外に通じる柵を開けたところ、チンパンジーは外に出て、餌の中からセロリを一本取り出して、トレーナーに手渡したそうだ。チンパンジーは、トレーナーを強化する気だったようだ。
 (あ)が、ペットに対する強化トレーニングに惹かれるのは、トレーニングの過程で何らかの意志の疎通があるからだと思う。もちろん全てが上手くいく訳はないけれど、試行錯誤をしているうちに、偶然でも上手くいく瞬間がある。その時、お互いに笑顔になって、一瞬だけど気持ちが通じた気になれる。
 ルーシーとも、そういう瞬間が増えれば良いなぁと考えている。