ウケてる?

 (あ)は、ドッグダンスではお笑いでウケを狙っている。どうやらルーシーは、ディスクやボール遊びでウケを狙っているらしい。
 誰もいない公園で、二人で遊んでいる時、ルーシーは実にマイペース。紐付きボールを投げられたら、追いかけて拾いはするけれど、戻りは遅い。(あ)の手元まで持ってきた試しがない。大体が途中で「よっこいしょ」と腹這いになり、クチャクチャと口の中でボールをカミカミする。
 「ルーシー、ボール!」「持ってこないとオシマイよ」と促され、シブシブ持ってくる時の足取りの重いことよ!それでも、手渡してはくれない。途中でポトンと地面に落として「取るの?」と、恨めしげにこちらを見上げる。「ちゃんと!」と言われて、またシブシブくわえてみるが、口の中でクチャクチャ。酷いときは、そこでまた伏せてしまう。
 こちらがシビレを切らし「ちゃんと持ってこないと、オシマイよ。ハイ、オ〜シ〜マイ!」と声をかけると「マイ!」の部分に合わせてボールを持ってくる。でも(あ)から2、3歩離れた場所にポトンと落として、自分はサッサとUターン。

 ボールやフリスビーを投げてもらう時、地面にへばりついて身体を小さくしたり、木の後ろに隠れたりするのは、犬なりに何か意味があるのだろう。問題は、その姿を見た人が「なんで隠れてるの?」と笑うのを見て、ルーシーが「ウケてる!」と思っていることだ。
 二人で遊んでいる途中に、知り合いのワンちゃんと飼い主さんが通りかかったら、ルーシーは態度を一変させる。急にマジメにボールを追いかけ(あ)の「ちゃんと!」の声で足元まで持ってくる。特に飼い主さんが女性だと、ルーシーのテンションは上がる一方だ。「スゴイね〜」「エライね〜」「上手だね〜」と高い声で褒められると、「ウケてる!」「褒められてる!」と非常に嬉しいはずなのだ。そのクセ、その人の方を敢えて見ないようにして、非常に真面目な顔で(あ)の動きを見つめている。
 その人のワンちゃんが、同じ場所でボール遊びを始めると、ルーシーは二つの態度のどちらかをとることになる。
 1.エンジン全開で頑張ってしまう
 2.スローダウンして、伏せてボールをカミカミ
 1の態度は、完全に相手のワンちゃんをライバル視しているからで、飼い主さんの注目を自分に引き寄せようとしているから。この場合は、相手のワンちゃんもボール遊びが得意なことが多い。飼い主さんも周囲に気を配る余裕のある方が多く、ルーシーも自分の方を見てくれるチャンスがあると思っているようだ。
 2の態度は、飼い主さんの注目が自分に注がれないと分かった時。飼い主さんが自分のワンちゃんと遊び始めて、そちらに集中してしまった時。今まで自分の遊ぶ姿に歓声を上げてくれていたのに、それがなくなって、急にやる気をなくす。人間なら「チッ!」と舌打ちしていることだろう。とことん現金なヤツなのだ。
 夕方、例によりボール遊びをしていたら、マリーちゃんが、お母さんとお姉ちゃんに連れられて、やって来た。マリーちゃんは、まだ1歳にならないキャピキャピ・ギャルである。いつもは、お母さんが散歩させておられ、ルーシーも美味しいおやつをいただいている。今日は、自分を可愛がってくれそうな人が二人もいる。ルーシーはシャカリキでボールを追いかけ始めた。お姉ちゃんの「ルーシー、可愛いねぇ。スゴイねぇ」の高い声に、ルーシーは有頂天。ボールをくわえたまま、木に登りそうな勢いである。
 マリーちゃんも、同じ場所でボール遊びを始めた。すると、お姉ちゃんの注目は当然マリーちゃんへ移る。そのうち、マリーちゃんが、虫の死骸をくわえて走り始めたから、さぁ大変。お姉ちゃんは3オクターブ高い声を出して、マリーちゃんを追いかけ始めた。
 すると、ルーシーはボールをくわえたまま立ち止まり、ドヨンと表情を曇らせた。お母さんが−−お姉ちゃんよりも声が若干低いのだが−−「ルーシー、疲れたん?」と声をかけると、ポロリとボールをその場に落とし、じっとボールを見つめた。そして「あ〜、もう、止め!止め!」と首をぶるんと振って、水を飲みに戻ってきた。
 (あ)がニヤニヤしながら「ルーシー、もうオシマイ?」と声をかけても、ルーシーは鼻からタメイキをついて、恨めしそうにチラリと見るだけ。その顔は「だって、ガキには勝てへんもん」と言いたげだった。 
 
←台が小さいのに上がりたがる。後ろ足が落ちかけてるよ。