N先生による診察以来(あ)はルーシーの歩き方が気になって、側を歩くルーシーの後ろ足を盗み見る毎日を送っている。首を動かすと、ルーシーが意識してしまうので、首を動かさず、目だけを動かして後ろ足を見る。カレイかヒラメになった気分である。
 散歩の途中、チェックを忘れた頃に、後ろの方で「ジャッ」と音がすることがある。後ろ足の爪が舗装道路に引っかかっている音だ。やはり足の挙げ方が少ないのだろうか?靱帯が元通りになるまで2,3ヶ月。それまでは、状態を細かくチェックしながら、地道に歩いて筋力を上げるしかない。
 N先生に話を伺って以来(あ)は必死で自分を納得させようとしてきた。N先生は獣医師の立場から、ルーシーが今持っている運動能力を、できるだけ長く維持させることを考えて、アドバイスしてくださった。簡単にすると「股関節形成不全は、手術以外では治らない」「今の段階で股関節に傷が入ってようが、いまいが関係がない」「フリスビー、ボール遊び、ダッシュはダメ」。
 頭では理解していても、心情的に受け入れ難い。ルーシー本人は、まだ股関節内部の靱帯が一部伸びてしまっている状態で、違和感があるはずなのだが、隙あらば駆け出そうとする。散歩の途中で、いつも可愛がって下さる飼い主さんに出会うと、飛びつこうとするので、これを抑えるのに苦労する。相手の飼い主さん一人一人に事情を説明したところ、大半の飼い主さんが理解し、同情して下さった。中には、ルーシーが飛びつかなくて良いようにと、ご自分がわざわざ地面に膝をついて、ルーシーの鼻面に顔を持っていって下さった方もいた。本当に申し訳なくて、有り難くて、ちょっと泣きたくなった。
 確かに股関節形成不全は、投薬等では治らない。今の段階で骨が傷ついていなくても、将来傷つくことは充分起こり得る。でも、ルーシーの走りたい願望は強いし、今だって、走ることは不可能ではない。靱帯が完全に治った後は、一人の時は少しくらい走らせても良いんじゃないか?走る事で体力や筋力もアップするかもしれないし・・・。
 そんなことをツラツラ考えながら歩いていると、背後で「ジャッ」という音がする。その度に背筋に水をかけられた気分になる。この数日、その繰り返しである。
 困るのは、自分自身の中でも気持ちが揺れ動き、それを収めるのに苦労しているところで、(た)が「ちょっとくらい走らせたって良いと思うよ」等と言う。思わず気持ちがグラリと大きく動いてしまう。一番理解しなければならない立場にある飼い主が、この体たらくなのだ。
 幸か不幸か、靱帯が完治するまで2,3ヶ月かかるという。この期間中に、なんとか自分の気持ちを整理したいと思っている。