初春や〜♪


 朝の散歩で、甲斐犬の血を引く、きなこちゃんに出会う。見れば、飼い主さんは着物姿。思わず「これから、おでかけですか?」と訊く。
 「いえいえ、これが私の普段着なの」え〜?!自分で着られるんですか?(当たり前じゃ)
 「私、着付けの講師の免状も持っているし、教えたりしているものだから、忘れたくなくて。冬のこの時期は、大体着物なんですよ」でも、犬の散歩にお着物で出られるんですか?足元が寒くないですか?それに足も広げられないし。
 「意外と暖かいんですよ。それに、このくらい(実際広げて見せていただいた。80センチ程)開いたら充分でしょう?」
 「袖も、コートを着ているから邪魔にならないし。帯は半幅なので苦しくないし。」
 世の中に多芸多才、多趣味の人は多いけれど、きなこちゃんのママさんも、その一人である。牛乳パックを材料に紙を漉き、クローバーを挟んで年賀状を手作りされたと年末に聞いて、非常に驚いたばかりである。同じ24時間を与えられているのに、(あ)は大掃除だけで手一杯だった。
 ママさんのお母様が、着物を着られることが多かったし、子供の頃から年始は着物を着ていたので、和服でも動けることを知っていたそうだ。それにしても、ワンコの散歩に着物とは−−。
 (あ)が思わず「考えられない!」と言うと、ママさんは大笑い。
 「最初は、この子も見慣れないせいか、飛びついたりしてましたけど、今では慣れてしまったしね。この着物は洗えるから」腰を悪くされたせいもあり、洋服よりも着物の方が腰が安定するそうだ。
 にしても、だ。
 よしんば自分で着物が着られたとして、着物を着て、今でもリードを引っ張りまくるルーシーを連れて歩くなど、全く考えられない。きなこちゃんに会う前、野良猫を見かけてダッシュしかけたルーシーを停めるのに苦労した。着物を着て歩くなど、甲冑を着て歩くのと同じである。かえって、甲冑を着た方が、背後でガシャンガシャンと音がするので、ルーシーがビビって、指示に従ってくれるかもしれない。
 「着物を着たからって、普段の家事ができない訳じゃないし、それを言い訳にしたらダメだって、自分に言い聞かせてるの。」
 う〜〜〜む、多芸多才、多趣味を支えるものは、普段からの心がけなのだなぁ。
 初春や〜♪心がけから違うのね〜  お粗末!