最初の一週間

 F公園に行かなくなって、一週間が経とうとしている。偶然、知り合いの飼い主さんに出会うと「アナタが、気の毒ね」「ルーシーがあんなことするなんて、ビックリしたわ〜」などと優しい言葉をかけられる。気に掛けていただいて、嬉しいやら恐縮してしまうやら。そして必ず訊かれるのは「で、どうしてんの?」。
 これは、ルーシーのことを良く知っておられるからこその質問だ。ルーシーは、運動不足になるとストレス行動を始める。走らずにはいられない体質。知り合いの方には、可愛がってもらえるのが当たり前と思っているジコチュー犬。こんな「やりにくい犬」を抱えた飼い主は大変なのに、F公園に行けなくなって「一体どうしてんの?」ということだ。
 とりあえず、朝は1時間以上、歩き中心の散歩。S田谷公園まで歩いて、山(丘?)の遊歩道を2周ほど走らせる。この一週間は、一日の間に天気がコロコロ変わるので、朝か夕方のどちらかが運動できない。朝の散歩を長くしなくちゃいけない場合は、S田谷公園から自宅近くの空き地まで足を延ばして、ベーシックの訓練をした後にディスクをすることも。その日の夕方や次の日が雨と分かっていれば、ディスクは20投(そうでなければ大体10投程度)。朝の散歩を長くしたら、夕方は歩きだけ。できるだけ山道を選んで1時間半ほど。散歩の途中で小さな公園に立ち寄り、隅で少しだけディスクをすることもあるが、基本的には、これはオプション。晴天が続く予報が出ていて、こちらの腰痛が「ヤバイ」と感じたら車で出かける。車で出かける場合には、なるべくゆっくりと散歩をすることにしている。
 こうして、なんとか最初の一週間を過ごしてきたが、かなり肉体的・精神的にキツイ。以前はディスクをする時、他の飼い主さんとお喋りしながら、ルーシーの疲労度を見ながら、のんびりやっていたが、今は自分たちだけなので寂しさが募る。「何やってるんだろう?私」と、無意識に自問自答ばかりしてしまう。犬と向き合うことが空しく感じられて(育児ノイローゼの母親みたいだけど)、ディスクをする時間は長くて15分程度。
 それにしても、巷に和系のワンコがなんと多いことか!特に住宅街を歩いていると、和犬に出会うことが多い。昔「コリー系は、和犬と相性が悪い」と聞いて「こっちがガイジンってこと?言葉が通じないとか?」と半分茶化して笑っていた。当時は、柴犬の小太郎君やハナちゃんと同じ遊び場で遊んでいたから、ルーシーは大丈夫だと思いこんでいた。ところが、先日の一件以来、訳が分からなくなり、知らない和犬が近づく度(あ)は緊張せざるをえない。
 最近聞いた話によると―――。コリー系はワーキング・ドッグであり、グループが協力して家畜を動かすため、犬同士のコミュニケーションがとれなくてはいけない。そのため表情が豊かで、さまざまな姿勢をとることで、自分の感情を明確に表せるように遺伝子に組み込まれているらしい。一方、番犬として多用される和犬は(狩猟犬は除く)、基本的に一家に一匹だし、グループで働くことがないから、犬同士のコミュニケーション能力を必要としない。人間にとっての利用価値だけを重視して長年にわたり交配した結果、必要な性質は強化され、不必要な性質は淘汰されてしまった。だから、コリー系と和犬の間に会話は成り立たないのだという。とすれば、(あ)の冗談も的はずれではなかったことになる。
 ルーシーには、おやつを見せ、与えながら、こちらに意識を集中させて歩いている。和犬か洋犬かに関わらず、ルーシーが見知らぬ犬にどのように反応するのかが不明だから。それでもルーシーには、小型の和犬に対して、やっぱり苦手意識があるようだ。大型の和犬は鷹揚で、どちらかというと、ルーシーより(あ)に興味があるらしく(笑)、はなからヤツのことは眼中に入っていない。しかし小型の和犬は違う。無表情で飼い主さんに寄り添って、静かに近づいてきたと思ったら、すれ違いざまに、飛び掛かろうとする子もいる。和犬の間で「黒白のヤツ、チビのくせに態度がデカイ。一回シメたれ。」と口コミ情報が広がっているのだろうか?飛び掛かろうとする先が、弱点である後ろ半身であることも、ルーシーが小型の和犬を嫌う理由かもしれない。
 いろいろ考えた一週間。それにしても―――。いつか、ルーシーと一緒に散歩を楽しめるようになるんだろうか?

 ↑ディスクの時間を短くしたせいか、レトリーブ率がアップ。「持ってきましたけど」と上目遣いで訴えるようになった。