なんだかなぁ

 4歳にして、いまだ飼い主のリーダーシップを全面的には受け入れていない。そんな犬を相手にして、もしも成長できたことがあるとするなら、ルーシーではなく(あ)のナマズのような危機センサーかもしれない。それでもセンサーが感知することなく、事件が発生して、その度に「シツケ教室に通っていながら、何やってんだ!」と自分を呪いたくなる。何がいけなかったのかを考えることすら辛い。それでも4年を経ると、問題の99%は自分に非があるのだと納得できるようになってきた。
 周囲のワンちゃんは急速に精神的な成長を遂げ、ルーシーだけが取り残された。なかなか大人にならないルーシーをカバーするには、飼い主が成長する方が要は簡単なのだ。リスクがあると思えば、最初から近寄らない。「ヤバイかも」と思ったら、先に警告を出す。「だけど、それで本当に良いのかなぁ?」という疑問がずっと頭の中に残っていた。ルーシー自身は一向に成長していないのではないか?
 お友達の飼い主さんに「いつ、○○ちゃんは従順になったの?何かキッカケはあったの?」と訊くと「そりゃ、一回真剣に対決したもん。でも、その後は良い子になったよ。」え〜?一回で済んだの?どうやって?「息子を噛んだからね。馬のムチで叩いたらチビッたわ。」なぜ乗馬をしない一般家庭に馬のムチがあるんだろう?・・・という疑問はさておき、やはり「ここぞ」という時、犬に真剣に向き合い、戦い、勝利しなければならないんだろうな。
 じゃあ(あ)は真剣じゃないのか?―――自分では毎回真剣なつもりだ。ただ、ルーシーにそれが通じているかは正直自信がない。これまで何回か自分の尺度でも「とんでもなく叱った」つもりだけど、ルーシー自身は「その場では謝っておいて、テキトーにやり過ごせたら良いや」と思っているフシがある。同じマチガイを繰り返すのは、その証拠ではないか?
 例えば、膝の上でルーシーを仰向けに抱っこしながら足を拭く。ルーシーは、元来体を触られるのがキライ、足が濡れるのがキライ、仰向け抱っこがキライで、昔は唸ったり、威嚇したり、噛みついたりを繰り返し、その度に(あ)はいろんな手を使って改善しようと努めてきた。まずは、反抗的な態度を止めたら食べ物を与えるという陽性強化から始めた。それが効かないと分かると、マズルを掴んで注意したり、ガチャ缶を使ったりと、ありとあらゆることを試してきた。
 今では、こちらが手を放しても、ルーシーは暴れて逃げることはなくなった一方で、それでも「イヤだ」という感情をコントロールできず、歯を剥き唸る。こちらに攻撃しなくなったし、一応体を預けているのだから少しは進歩したかな?毎回注意し叱るのに疲れた(あ)は「ルーシーは、歯を剥いたり唸ったりするのがいけないことだと理解している。感情を出さないようにガマンすることができないだけ」「歯を剥いて唸るくらいなら、『コイツは元からこんな顔なんだ』と思えば良いか」などと考えていた。
 ところが、A先生によれば「飼い主に歯を剥くこと自体が許されないことだから、止めるまでは、どんな手を使おうとも叱らないとダメ」という。要は飼い主のコントロールを認めていないからだ。「それが大きな問題に発展する可能性もある」と言われた。その後、何回か相手がビビるまで叱った。チビったり、キャンと鳴いたりすることはなかったが、ルーシーが恐怖の表情を浮かべるまで叱った。
 その結果、ルーシーは顔を背けて小さく唸るようになった。それも(あ)が手を動かしている間に(笑)。(あ)が手を止めると、唸りを止める。コイツ、本当に反省してやがるのか?そうまでして反抗的な態度をとるのは、なぜか?今後、何回か同じように対決すれば、全面的に(あ)のコントロールを受け入れる日は来るんだろうか?また、これを見逃していたら、大きな問題に発展するんだろうか?
 4歳の秋を迎えても悩みや疑問は尽きない。