女子シングルで泣きました(笑)

 ちまたはキム選手と浅田選手の金メダル争いで盛り上がっていたけど、本人達が重視していたのは、オリンピックの舞台で自分の演技をどこまで完璧にできるか。それでも、勝つと負けるでは大違いだ。特にスポンサーやファンの期待を背負っていれば、なおさら。それぞれに自分だけの2分50秒、4分間のはずなのに、そうはいかないのが現実なんだろうな。オリンピック・デビューなのに少し可哀想な気がした。
 浅田選手は、今回のオリンピックに向けて、当初はフリーの演目を2種類考えていたそうだ。一つは、実際に披露したラフマニノフの『鐘』。もう一つは、もっと明るい、さわやかなイメージの曲。ところが本人が「自分を変えたい」と考え『鐘』を選んだとか。これはオリンピックを控えた選手にとっては、かなり大きな賭けだ。
 国内では当然「なんで、あんな暗い曲なんだ?!」との疑問の声が上がった。私もその一人であり「ラフマニノフが良いのなら、ピアノ協奏曲(以前、2番を村主選手が踊った)のように、もっとメロディックで観客が感情移入し易い曲があるではないか」と思ったものだ。
 一方、本人は「(『鐘』を)気に入っている」と言い、この難しい課題に真正面から向き合った。トリプル・アクセルは女子では自分にしかできない技なので構成から外せない。高難度のエレメンツの間に、トランジションにも難度の高い技を入れ、なおかつキム選手に少しでも追いつくため表情を作る。難しいジャンプの前には、本来はそのことだけに集中しなければならないのに、同時にいろんな作業をすることになった。世間でメダル獲得のプレッシャーが強くなる一方だったが、ジャンプの成功率は目に見えて落ちた。これは、構成全体の難度を急激に上げたためだ。複雑で高度なエッジワークを必要とするストレート・ステップ・シークエンスは、一気にスピーディーに踊りきる。通常であれば、シークエンスに入る前に息を整えたい。しかし、その間にツイズルを入れて休むことはしない。スピードを維持し正確なステップを踏むためには、かなりのスタミナを要求されたはずだ。それでも、彼女は自分のスタイルを変えることを目指し、同時に金メダルも獲ることも目指した。
 これと対照的なのは、キム選手の演目だった。できるだけモダンな音楽を使い、テーマは北米の観客に分かりやすいものを選んだ。構成の面では、確実に成功できるジャンプに絞り(それでも3回転のコンビネーションは高難度だけど)、息を整える間を置き、一つ一つの技の基礎点と加点を確実に獲る方針に徹した。得意な表情づくりと演技を、より余裕を持って見せることができるように、ジャッジや観客にアピールできるように努めた。そして、プログラムを完璧に実施して、女子では考えられない高得点をたたき出した。
 「どちらが賞賛に価するか」という議論は意味がないだろう。キム選手は、自国でフィギュアスケートがスポーツとしてまだまだ確立していない状況で、競技人口を増やすべく金メダルを獲りたかったのだろうし、一方、浅田選手は、スケーターとしての将来を見据えて「今、自分を変えるべき」と判断したのだろうから。
 他の選手でも、オリンピックで披露する演目は、長い場合2年もの期間をかけて、つくり上げるものらしい。方針を決めたら、そう簡単には変えられない。2人とも19歳の若さで、今、何が自分にとって必要か、何を自分に求められているのかを真剣に考え、方針を決めて、それに沿って演目・構成を決めて、完璧な演技に向けて努力した。本当に素晴らしい戦いだったし、素直に感動した。
 考えたら、前回の冬季オリンピックの頃は、ルーシーがまだまだ子犬で、大好きなフィギュアもゆっくり観れなかったなぁ。ヤツは、荒川選手の演技の間に『おしっ○4回転』を決めてたし(爆)。