今津線

 待ち合わせの間に書店で本を買った。有○浩著『○急電車』。何の気なしに頁をめくる。意外なことに気が付いた。まず小説だったこと。『阪○電車』なんて題名だから、手に取るまで電鉄会社が作った社史かと思った(笑)。実際はオムニバス形式というのかな?電車が、ある路線の各駅を進むにつれ、複数のお話が展開され、それぞれがつながっていく。 
 次に驚いたのは、その路線が今津線だったこと。○急電車は京阪神地域をつなぐ複数の路線があるのだけれど、この題名で今津線をとりあげたら、まるでこの路線が代表みたいではないか。他地域の住民が抗議するんじゃないだろうか?大きなお世話だけど、ちょっとドキドキする。
 というのも、就職するまで(あ)の世界は、ほぼ今津線どまりだったから。大学まで今津線だったし、バイト先も終点の西宮北口(笑)。ご近所の同級生は、朝5時起きで京都の大学まで通っていたというのに、自分は片道30分ほどの、おそろしく狭い世界で生きていた。その代わり、20年近くもの間、電車に乗らない日はなかったし、この路線でホームに下りたことのない駅はない。この路線のことはよく知っているという自負があったから、この本を手に取った時、子供の頃から家にあった古いツボが、他人に骨董品として評価されたようなオドロキを覚えた。
 なんで○急電車なんだ?
 ○神でも近○でも南○でも良いのにさ。もっと言えば神○高速でも山電でも良いのにさ(爆)。山電は景色は素晴らしいと思うけどなぁ。
 それに、なんで今津線なんだよ?
 なんで利用率が高い神戸線京都線じゃないの?
 神戸線京都線は路線が長くて駅も多いから、オムニバスにするには沢山話を作らないといけない。多すぎる話をつなげていくのが無理だったからか?
 そういう意味じゃ、箕○線、伊○線、甲○線じゃ駅が少なすぎるか?すぐに終点に着いちゃうからドラマが生まれないか?
 もっと特色のある線があるだろーに。千里線とか(爆)。あ、あの路線は、いしい○さいち大先生に既にカバーされてるか?それとも地下鉄とくっついちゃったから、純然たる阪○電車の文化圏ではなくなってきているからか?
 確かに「電車の文化圏」てのはあるな。○神や近○に乗って、軽いカルチャーショックを覚えたこともあるし。相互乗り入れや連結をすると、純粋な文化圏てのは崩れるのかもしれない。連結してるのがダメだったら、神戸線もダメだな。
 じゃ、いっそのこと○勢電(○急系列)とか?かなり濃い味を出していると思うけど(爆)。駅数は適当だけど、いかんせん周辺地域の歴史が浅いかな?それに終点の川西能○口はJRに連結している。うぅむ。
 読み進んで得た印象では、著者は今津線のことを良く知っているようだ。「知っている」というのは、詠み聞きで知った知識じゃなくて、「実際にこの路線に何回も乗っているな、今津線の雰囲気を肌で知っているな」という感じ。でも比較的乗っている期間は短い。おそらく若い人なんだろうと思う。
 ふと思い出したことがあった。子供の頃は電車に乗ってくる迷い犬をよく見かけた。飼い主もいなければリードもついていない。こちらが目を丸くしている間に、ワンコは、どこかの駅で降りていくんだけど、あの子達は大丈夫だったのかなぁ?保護されたんだろうか?
 無賃乗車犬は、神戸○鉄でも見かけなくなったなぁ(だって、神戸市内の駅なのにホームの向かい側が畑とかってのもあるくらいだもん)。自動改札になったからかなぁ?
 (あ)が大学生の頃、西宮北口でのバイトを終えて10時頃に宝塚行きの電車に乗ると、よく見た光景。それは、駅員さんが犬を捕獲してどこかへ連れて行く姿。
 今津線の乗り場がある駅の北側は、大規模なスーパーや神戸線がある南側と違って静かだったから、時折、迷い犬が線路に入り込んでいた。線路沿いには柵が立てられているので、どこから来たものか分からないけれど。迷い犬の連絡を受けた若い駅員さんが線路に向かって走っていたり、リードがないからか捕獲したワンコを抱きかかえてホームを移動したりする姿を見かけたっけ。
 震災以降、西宮北口周辺も大きく様変わりしているはずだ。迷い犬はいなくなって欲しいが、今津線の、あののんびりとした雰囲気はそのまま残っていて欲しいものだと思う。