ただいま特別警戒中

 ルーシーは、年平均で2回、(あ)の超大目玉を食らう。大体、春と秋の時期だ。以前は、この時期に他のワンちゃんとトラブルになり、これが原因で怒られていた。最近では、だんだん傾向と対策が見えてきて、警戒してルーシーの様子を観察するようになった。権勢欲がムクムクっときたかと思った瞬間に、先に小目玉を食らわせる。そうすることで、トラブルの発生を回避できるし、発生したとしても被害規模が小さて済む。また、こちらの罪悪感も少ない。
 ルーシーの場合、権勢欲のバロメーターがいくつかある。
 最初に現れるのはニオイ嗅ぎ。しつこく地面のニオイを嗅いでマーキングをする。全く個人的な意見だけど、排泄自体に問題はないと思うし、ニオイを嗅ぐのは犬同士のコミュニケーションだから、伝染性の病気(ケンネルコフとか)がうつらない限り、まぁ良いかと思っていた。しかし、これがルーシーの本能や権勢欲をある程度刺激しているかもしれないと考え、シェーピングで減らす努力を始めた。このシェーピングはかなり効果があり、こちらを意識して歩くようになって、気が付くとルーシーがこちらを見上げて歩いていることが多くなった。
 もうひとつのバロメーターは食欲だ。食欲が増えると権勢欲ガラミのトラブルが起こりやすくなる。それなのに、おかしなもので、食べ物を巡って他のワンちゃんとトラブルになるケースは皆無。追い駆けっこ中に、どちらかがしつこかったとか、散歩中に見知らぬ相手がガンをとばしたとか、そういう理由が多い→ルーシーって、ホンマにチンピラ野郎だなぁ(苦笑)。これも、あらかじめ警告することで、今のところ発生件数は0件だ。
 ところが、この秋、家庭内で小目玉が既に2回。目玉の効果が薄いのか?大体は目玉を食らった後、ルーシーもこちらの様子を慎重にうかがうようになるんだけど、この秋はどうも様子が違う。屋外にいるルーシーの興奮度が総体的に高い気がする。リードを着用して屋外に出た瞬間に、すでに少し興奮している。シェーピングしながら歩いていても、まるで呼びかけが耳に届かないような真剣な態度でニオイ嗅ぎをしたり、警告や制止の声に反応しないくらい取り憑かれたように吠えたりすることがある。
 思い当たることは今年の猛暑。夏の間に外に出なかったワンコ達が、9月半ばぐらいから一斉に外に出るようになった。それまで限られたワンコのニオイしかしなかったのに、急にワンコのニオイが周囲に増えたことで、ルーシーの本能が刺激され興奮し易くなっているのではないか。そして秋は繁殖の時期でもある。去勢や避妊をしても、大脳には異性に対する興味や本能的行動を司る部分があると聞いた。繁殖についても、これまたニオイで情報を伝達するものだから、ルーシーの本能は直接ガンガン刺激を受けているのかもしれない。
 そして、夏の間には全く姿を見かけなかった野良猫や野生動物が姿を現した。
ルーシーが「取り憑かれたように吠えた」相手はネコである。我が家の隣のブロックは道が一方通行で、朝晩の出勤・帰宅時間以外は車の量が非常に少ない。そのためか、野良猫が空き家で子育てをしているらしく、天気の良い日中は、道路の真ん中で子猫がコロコロと戯れている。それまで(あ)の顔を見上げて歩いていたルーシーが、突如リードを引っ張り始めるのはネコの気配を察してのこと。何分ネコは角の向こう側にいて、(あ)には姿が見えず、全く警戒していなかった。リードを突然引っ張られて、思わず転けそうになった。
 なぜかネコだけは、こちらが気づく前にルーシーが察知してしまう。相手が動いている場合もあれば、じっと座っている場合もあるから、単に動体に反応しているだけではなさそうだ。また、我が家近くのネコは自分が安全圏にいることを知っていて、目の前でルーシーに吠えられても背中を丸めるくらいで逃げようとしない。それどころか恐怖刺激を楽しんでいる感じがするから憎らしい。興奮度MAXの状態では、ルーシーにコマンドを出しても全く効果がないので、引きずるようなかたちで、その場を去る。相手にオモチャ扱いされているのに吠えまくっているルーシー。バカ丸出しだ。だけど本犬は「やってやりました」と一汗かいた後の爽快な表情である。困ったヤツだ。
 カラスは、こちらの方が気づくのが早いのになぁ。こちらが先に気づけば、警告を与えることもできる。リードを引っ張られても対応する心の準備もできるんだけど。
 というわけで、2010年秋のルーシーはいつもと違う。ただいま(あ)は特別警戒中である。