八方ふさがり

 土曜日は教室。本番まで残すところ2回。最後の授業の翌日が本番だ。
 ・・・ヤバイ。
 これはヒジョ〜にヤバイ。
 ここまで仕上がってないのって初めてじゃあるまいか?
 曲を通して1回も踊れてないし。この一週間で、なんとか一回は踊れるようにしなくちゃイカン。
 「ハンドシグナルを出さないようにしてください」と指示を受ける。頭では分かっていても、音楽とルーシーに集中すると、無意識にハンドシグナルが出てしまう。重ねて「手を背中側で組んでください」と指示が出された。「ハイ」と即答できなかった。
 背中側で手を組むのは、ルーシーにとっては別の動作のハンドシグナルなのだ。(あ)の口からは「ツイテ」の指示が出るけれど、ハンドシグナルは「アップ」(立ち上がって背中に前足を置く動作)。ルーシーは最初全く理解できずに何回も背中に飛びつき、その度に(あ)に「違う」と言われて、アウアウと文句を言っていた。そりゃ、そーだよなぁ。
 ツイテ強化のおかげで背中に飛びつくことはなくなった。ただし「アップ」は「ツイテ」よりも、元より動機が高い。本人はツイテで歩きながらも心の中で葛藤している模様。その証拠に、よしんばツイテいても歩くスピードが遅いし、歩いている間にジリジリとヒールの位置が下がってしまう。
 はっきり言って、これ以上ハンドシグナルの有無にこだわっている時間はない。それでも必要だというのなら、ハンドシグナルを出さないように「手を背中側ではなく、体の前で組むようにしたい」と言うと、先生は首を傾げて考え込んだ。
 ハンドラーが手を体の後ろで組むか、それとも前で組むか。
 そんなに大きな問題だろうか?
 要は、ハンドシグナルを出さないことが大切なのだろう?なんで、そんなところで先生は悩むのか?
 こちらとしては、ルーティンをきちんと踊れるかどうかすら分からない状態なのだ。そんな細かいところに心を砕く段階まで到達していない。先生にそう訴えるが「もう1週間だけ頑張ってみましょう」と諭される。こちらが考えていることは全て理解してもらっている上で、先生が下した判断だ。シブシブ1週間はやってみることに。
 ジャンプは助走ナシなら、まだマシだけど、助走させるとダメダメ。飛んではいるけれど、後ろ半身が緊張していない。スティックは、こちらがスティックを取り出すのにモタモタしたりハンブルしたり。あらゆるところが固まっていないし、あらゆるところに問題アリ。こんなんでカタチになるのかしら?先生は「なるようになるでしょ」と諦観の表情。
 こちらが頭を抱えていると、先生が「そういえば、どんな衣装なんですか?」
 とりあえず用意したものの、これもイマイチなんだよねぇ。思っていたほどの効果がなくて(笑)。
 おまけに、正直なところ(あ)はダンス以前に衣装を考えたことが、今になって恥ずかしくてしょうがない。
衣装はネットでセール対象品を購入することにしているため(ビンボーだし裁縫ができないから)、1ヶ月前には発注しなければならない。購入しても希望どおりの物が来るとは限らないからだ。その時だって「ダンスができあがっていないのに衣装だけを揃えるのって本末転倒だなぁ。良いのかしら?」と思っていた。その後は仕事が急激に忙しくなり、衣装はなんとか揃ったけれど、なかなか練習の時間がとれない状況。
 ダンス自体が仕上がっていないのに、衣装だけが、とりあえず揃っている。見る方から「衣装を揃えているヒマがあったらダンスを仕上げろよ」と言われそうな気がして、胃が痛くなった。正直に先生に話してみたところ・・・
 「いえいえ、衣装も大切ですからね」でも、ダンスがダメダメなのに・・・。衣装でダンスをカバーできると思ってらっしゃるのだろうか?いや、それすらも難しいと思う。
 八方ふさがりの状況だ。仕事のことは、ある程度まで予測していたけれど、予測を上回る忙しさと煩雑さだし。「やっぱり出場はやめておいた方が良かったんだろうか?」とまで考える。
 とりあえず、あきらめずに次の授業を目標にして頑張ってみよう。