シツケ談義

 散歩先で時々出会う大型犬の女の子。6ヶ月になって体格も随分大きくなった。相変わらず犬も人間も大好きで、こちらを見ると「わぁぁい!」と満面の笑みで近づいてくる。本当に屈託のない笑顔で、パピーの愛らしさを凝縮したような子だ。
 飼い主さんは、(あ)より少し年配のご夫婦で、夕方は奥様の担当らしい。ワンコは日に日に力も強くなってリードをグイグイ引っ張るようになり、小柄な奥様は腱鞘炎になって、このままでは制御できなくなると脅威に感じるようになっていた。そんな時に出会ったのが我ら、ヘッポコ飼い主とアホアホ・ボーダーのコンビだった。
 「賢くて落ち着いたワンちゃんですね〜」←ハイ、ここ笑うところです。
 「何歳くらいになったら、そんな風に落ち着くんでしょうか?」←どうぞ大爆笑して下さい。
 正直に「今はネコを被っているだけで本当は落ち着いてなんかいません。普通は2歳くらいで精神的にも大人になるそうですが、ウチのは遅いので。」と言うと
 「2歳?!それまでに(ご夫婦が)持たないかも」。
 訊けば、ご夫婦ともヒザや腕に持病があるそうで、日々の散歩も大変なのだとか。そこでI先生という訓練士さんに習おうかと考えているとのこと。
 この地域で、この先生の名前を耳にすることは多い。実際、ルーシーのお友達のワンコがI先生に習っていた。地域内のシツケ教室の中でI先生がユニークなのは、1日預かりというかたちで犬を預かり、飼い主ではなく犬に直接シツケをされることだ。他の教室では、訓練士さんやトレーナーさんが、飼い主に対して指導される。I先生は、車で各家庭を回ってワンコを積んで、訓練施設へ連れて行き、そこでワンコにそれぞれシツケをされ、夕方の散歩を済まして家に戻すというやり方を採っておられるそうだ。よほど楽しいのか、犬達は、お迎えの車に自分から飛び乗って行くほど積極的なのだとか。
 (あ)が「私達は習ったことがないので詳しいことは知りませんけれど、I先生は評判の良い先生ですね。I先生に犬を任しておられる飼い主さんを何人か知っていますが、悪いことを聞いたことがないです。」と言うと、嬉しそうな顔をされた。
 そこへ同犬種の男の子を連れた飼い主さんが登場。
「ウチも一時期I先生に習っていたんですが、どうも私は下手らしく先生のようには上手くできないんですよ。あの先生に習うのなら(人間も)やり方をキッチリ教えてもらった方が良いですよ」とアドバイス
 そうなんだよね〜。
 (あ)も一時「ルーシーをI先生にお願いしようかな」とチラリと考えたことはあった。しかし日常生活でルーシーを扱うのは、先生ではなく自分自身なのだ。ルーシーは人間を見る。御しやすい相手にはワガママを言い、褒められたい相手には素直な態度をとる。N先生の前でもA先生の前でもネコを被る。I先生は、預かり以外で頼めばやり方を教えてくれるらしいけれど、(あ)のような不器用な人間には、ルーシー以上に練習が必要だ。それなら、やはり自分が習わないとダメだと思った。おかげで、こちらはヒザや足首を痛めたこともあるし、もはや腰痛は持病だけど、トレーナーさんが呆れるほどの頑固な性格だったルーシーも、5年をかけて徐々に変化してきたと思う。
 I先生に習っている飼い主さんの中には、ご自分のワンちゃんのため、3回目のワクチンが終わる前にI先生に自宅に来てもらってプライベート・レッスンを受けさせたという熱心な飼い主さんもおられた。多頭飼いをされている関係で、これまで4人ものトレーナーさんに習ってきたが、I先生は段違いに上手いそうだ。これまでの経験から、やっぱりトレーナーさんによって犬は大きく変わると確信されたそうだ。ほぉぉぉ〜。
 では、具体的に何が上手いのかと突っ込んで訊くと「犬の生まれ変わりじゃないかと思うくらい犬の気持ちが良く分かる」「教え方も上手いんだけど、犬も人間も飽きさせない」方らしい。ほほぉぉ〜。
 そうだなぁ。犬もさることながら飼い主との相性も大切だよね。これって獣医さん選びにも通じることだけど。上手くコミュニケーションがとれれば、それだけでも飼い主にとって精神的には大きな支えになるワケだし
 ちなみに、先の大型犬の子は今、『お試し期間中』だとか(爆)。1回目は、訓練施設という慣れない環境で長時間、緊張していたせいか、帰宅後グッタリだったが、2回目は「何が気に入らなかったのか分からないけれど、帰宅後に暴れまくり、お父さんの長靴を噛んで振り回していた」そうな(笑)。「そういう情報も先生に教えてあげると、先生にとっても参考になると思いますよ」と言うと、飼い主さんは笑顔になった。
 うーん、他人様のおせっかいを焼いてるバヤイじゃないんだけどなぁ。私自身がヘッポコのままなんだから。でも、どうも暗い顔をして悩んでいる人を見ると、自分を見るようで放っておけないんだよね。
 この大型犬の子が落ち着くのは直ぐかもしれないなぁ。ウチらは、また5年かけてボチボチ頑張るか。ねぇ、ルーシー。