迷い人?

 夕方の散歩が遅くなってしまった。日暮れがどんどん早くなってきたので「これじゃ焦って公園に行ってもしかたないか」と歩きメインに変更。のんびりとジョギングコースを歩くことに。ふと、先日愛犬を亡くされた飼い主さんのことを思い出した。ご本人が偶然庭に出られていたので、家の前で立ち話をすることに。
 すると、見知らぬ老婦人が声をかけてこられた。「幼稚園に行こうと思っているんですけど」と仰る。飼い主さんの家から幼稚園は目と鼻の先。手で示しながら「あそこです」と伝える。ところが、おばあさんは、そちらへ行こうとしない。さては別の幼稚園かと、飼い主さんが「どちらの幼稚園ですか?」と尋ねると、それが分からないのだという。手に持った書類袋をゴソゴソと探る。ところが出てきたのは、メモではなく、使いかけのティッシュの箱「私、K新聞の者なんですけど・・・」
 うーん、これは・・・怪しい。
 つい先日、ニュースで認知症患者のことが取り上げられていた。行政は、不審者情報や地域犯罪の情報以外にも、いわゆる徘徊者の情報をネットで流しているのだけど、なかなかこれが上手く活かせないという話だった。哀しいことに、行方が分からなくなった認知症患者が驚くほど遠い場所まで移動して、死亡状態で発見されたとか。「もっと地域内で高齢者に対して声かけをする必要があるのではないか」というメッセージで締めくくられていた。
 一方、目の前の老婦人は全く衣服の乱れがない。こざっぱりとした清潔な服。ドラマに登場する徘徊者のイメージとはほど遠い。確かに、こちらの質問に対して的はずれの回答をして「おかしいな」とは思うけれど。ちぐはぐな応答をする高齢者は少なくないし。見た目だけから言えば、泥だらけの(あ)の方がずっと怪しかった(爆)。
 頭の片隅で「この人はもしかしたら・・・」と思っていても、具体的に対処するのは難しい。もし間違っていたら大変失礼だし。
 そんなことを考えていると、老婦人はこちらの怪訝そうな表情に気が付いたようだ。突然2,3歩ほど後ずさりして「じゃあ、これで」と言って、幼稚園とは別の方向へ歩いて行ってしまった。その時、あの表情は「どこかで見たことがある」と思った。
 その後、ルーシーと歩いていて思い出した。
 (あ)は、これまで何匹か地域で出会った迷い犬を保護して、飼い主さんや派出所へ届けたことがある。こちらの呼びかけに尻尾を振って近づいてくるフレンドリーな子もいれば、警戒して逃げる子もいた。あの老婦人が後ずさりした時の表情。あれは、警戒して逃げる犬の表情だった。「この人に近づいたら捕まえられる」自由を奪われる危険を本能で察知した時の表情だった。
 しかし、相手が犬ではなく人間の場合、複雑だ。犬だったら悩むことなく、まず身柄を確保するだろうけど。まずは「そういう人なのか、ただの変わった人なのか」の見極め。次に「どういう風に派出所に連れて行けば良いのか」。カラーとリードを付けて引っ張っていく訳にはいかないではないか。
 その後、コーギーのクッキー君とママさんに出会ったので、経緯を話して「私はどうしたら良かったんでしょうか?」と質問をぶつけてみた。
 すると、ママさんは同じような経験をしたことを話してくれた。散歩の途中で出会った高齢の男性は、コートを着てカバンを小脇に抱えていたが、足元はツッカケだったそうだ。その姿にピンときて「どこへ行かれるんですか?」と尋ねたら「分からない」という。歩き回ったのか大変疲れた様子だったとか。ママさんが「じゃあ、ご一緒しましょう」と誘うと、素直に付いてきたという。派出所に連れて行ったところ、前にも保護されたことがあったらしく、お巡りさんが直ぐに家族に連絡してくれたとか。「あの派出所はお巡りさんが常駐している訳じゃないから、ただ連れて行っただけじゃダメかもしれないけどね」
 ニュースによると、徘徊する人は、家族でも想像できないほど遠くへ行ってしまうことがあるそうだ。つまり、この地域以外の住民がこの地域までやって来て迷う可能性だって考えられる。
 迷い犬は保護した後、派出所で届けを出したり、事情聴取を受けたりの手続きだけでなく、元の飼い主さんのところへ帰れたかどうかが気になって気になって「ややこしい〜!」と思うけれど、迷い人もややこしい。全くややこしい世の中になったものだと思う。