正月から妖怪退治1

 正月に互いの実家に挨拶。両方の母とも70代で、ネコの年齢にしたら、とっくの昔に立派なネコマタだ(爆)。そのネコマタぶりには会うたびに驚かされる。
 まず義母。
 ルーシーを飼うことになった時、こちらは一言も言ってないのに、やけにキッパリと「私は(犬の)面倒を見ませんから」と言った。どうやら実の娘から、事あるごとにペットのハムスターの世話を頼まれているらしい。ハムスターと中型犬では世話の大変さは全く違うし、万が一、シツケの行き届いていないルーシーを預けて年寄りにケガなどされては大変だ。こちらは、ルーシーを義母に預けることなど毛頭考えたこともなかった。「お義母さんに、お願いすることはないですから」と言うと、少々気の抜けたような、安心したような顔をした。
ところが、なぜか義母はルーシーにチョッカイを出したがる。やれ、「家の中に入れろ」「ヨーグルトを食べさせろ」「餌を食べさせたのか」と、飼い主のケアの仕方に口を出す。訊かれてもいないのに自分から「面倒を見ない」と宣言したのなら、放っておけば良いものを。
 夏には車内にルーシーを置いておく訳にはいかないので、実家の玄関先に入れてもらうこともあった。その際、義母のチョッカイを始めはシブシブ許していたが、見ていると際限がない。おやつだけでなく、本犬が眠っているところへ行ってはチョッカイを出す。ルーシーはかまってもらえると思うから、実家で要求吠えをするようになった。(た)に「ご近所迷惑だし、ルーシーのシツケにも悪影響が出るから、お義母さんをどうにかして」と何回も頼んだが、そのたびに曖昧な返事でごまかされた。そのせいか義母の暴挙は留まることを知らず、ルーシーの様子に悪い影響が出始めた。
 (あ)は、これはラチがあかんと、義母に直接ハッキリと断ることにした。「満足して寝ているので放っておいてください」「股関節に問題のあるルーシーには肥満は大敵なので、余計なものを与えないで下さい」。すると義母は、我らがお向かいに挨拶に行くわずかな時間に、こちらに内緒でルーシーに余計なおやつを与えるようになった。そして「ルーシーに、ヨーグルトやった」と、呆れる(あ)を尻目にシタリ顔でギヒギヒと笑った。完全に確信犯。
 『高齢者のいる家庭のペットは太りやすい』とよく耳にするけれど、義母を見ていると良く分かる。自分達は特別な存在で、家庭内で決めたルールに従わなくて良いと思っているからだ。
 これでは、迷惑をかける範囲は我が家や実家に留まらないし、苦労してしつけてきたことが、すべてムダになる。ルーシーを義母の甘やかしから守るのは、自分しかいない。(あ)は決心した。マザコンの(た)はアテにならない。以来、(あ)は少なくとも夏の間は、ルーシーを(た)の実家に連れて行かせない。連れて行っても車の中に入れておくことにした。
 この正月も「ルーシーは?」と訊くので「車の中です」と答えると、義母は「中に入れてよ」と何回も繰り返す。
 寒いから可哀想だ。独りぼっちで可哀想だ。ヨーグルトをあげたいから入れてやれ(延々続く)
 ここで負けてはいけないのでキッパリと断ると、妖怪ネコマタは化けの皮がはがれて(笑)、「入れてよ!私が会いたいのに!」と恨めしげに文句を言った。こちらは平然と「面倒をおかけしては申し訳ないので」と言ったが、全く耳を素通りしたようだ。ネコマタともなれば、自分にとって都合の良いことしか耳に入れない特技を身につけているからだ。
実家にいる間ネコマタの口撃は続き、(あ)はグッタリ疲れてしまった。それでも(た)は、クレートの柵越しにルーシーとネコマタを会わせていた。筋金入りのマザコンやな(呆)
 げにおそろしきは、人の姿をしたる妖怪、人を操る妖怪なり。
(実母編に続く)