その犬、噛む?

 最近、知らない小学生に声をかけられることが多くなった。決まって「その犬、噛む?」と訊いてくる。
 個人的な『親犬度バロメーター』では、この質問をしてくる子供は全く犬を知らないと分類している。少しでも犬にふれるチャンスがある子供は、同じことをたずねるにしても「ワンちゃん、触って良いですか?」と訊いてくるからだ。だから、本音を言うと「その犬、噛む?」と訊いてくる子供には、ルーシーを近づけたくはない。
 しかし、子供は勇気をふり絞って、知らないおばさんに声をかけたのかもしれない。そんな子供をムゲに退けるのはどうか?
 犬飼いに対して逆風が吹く昨今だ。犬を知らない大人特に犬のことを知りたいと思わない大人犬を避ける大人が増えるにつれ、単に「これまで触れ合う機会がなかったから」というだけで「.犬を避ける子供、犬が怖い子供が増えている。ルーシーが適任とは言えないけれど、犬にふれる、犬を知るきっかけまで取り上げてしまうのは、どうだろう?
 という論理が頭を駆け巡り、口から出た言葉は、
 「噛まないと思うけど、飛びつきチューはするよ」だった。
 相手が女の子の場合、ひるんで引き下がることが多い。顔に傷でもつけられたらと思うのかな?子どもでもやっぱり女は女なのかも。ちなみに、男の子の場合は、「エエよ」と逆に面白がることが多い。犬には犬の理屈や感情表現がある。そのことを少なくとも警告しておかなければいけない。
 大抵は、おっかなびっくりルーシーの頭や背中をなでる。すると少し安心するようだ。次にオスワリやフセを命じる。なぜか、やたら声がデカイ(笑)。命じる声もデカければ、褒める声もデカイ。ルーシーは、知らない人にかまってもらえたことで、一瞬「私って、もしかして人気者?」と嬉しそうな顔をする。人に囲まれて、満面笑みである。
ところが、コメツキバッタのように繰り返し同じことをやらされると、そのうち「勘弁してよ〜」という表情になり、子供への関心がなくなる。それを感じ取った子供たちが「ありがとう〜」「またね」と言いながら去っていく・・・。

というのが、これまでのパターン。

しかし、最近は違う。


 なぜか、最初に「持って良い?」とリードを指さす。こちらが「すごく引っ張るし、危ないからダメ」と言うと、「大丈夫だから」「ここだけ歩くだけだから」と手を伸ばして、こちらの手からリードをとる。
 そして、リードでルーシーを引っ張ろうとする。当然ルーシーは動かない。ますます力を入れて引っ張ろうとする。ルーシーは意地になって動かない。予想通りの展開。
 顔を赤くしながら引っ張る子供を止めて話す。
 「乱暴にされて喜んで付いていくと思う?知らない人なら、優しく『行こう』って言われても行かないよ」
 「まずは友達にならないと」
 「人間でも友達になるには、自分のことを話して、相手のことを知らないとダメでしょ?」と諭す。
 子供はフン、フンと一応聞いていたが、次の瞬間、こちらのウェストポーチを指して
 「おやつ、持ってる?」
 ・・・ま、子供なんてそんなものか。
 「あげても良いけど、ルーシーは行かないと思うよ」と言うと「良いから頂戴」と言う。
 かくして、おやつを片手にリードを引っ張る。結局ルーシーは動かなかった。
 自分に従わず、つまらないと思ったのか「友達が来たから」とリードとおやつをこちらに渡して、走り去ってしまった。

 「その犬、噛む?」と訊いてくる子供って、シツケもなってないかもしれない(爆)。

 今度そう言って近づく子がいたら「噛まない犬はいない」と言った方が良いのかも。