距離感

 某公共放送のTV番組”Deep Pe○ple”。内容は、毎回異なるテーマで、その道のスペシャリスト3人がディスカッションをする形式なのだが、取り上げる分野が面白い。スペシャリストは、胃がんの外科医から女性演歌歌手まで幅広いっちゃー広いんだけど、個々の分野がめちゃめちゃ狭い。そこまでテーマを絞る理由はあるんだけどね。ちなみに前回は「ゾウの飼育員」。ゾウはライオン、キリンと並んで動物園の人気者である反面、飼育には危険がつきもの。過去には、事故で命を落とす飼育員もいたそうだ。
 スペシャリスト3人は、別々の動物園でゾウを担当する現役飼育員。同じ動物を扱っていても飼育のスタイルが違う。2人が直接飼育で、1人が準間接飼育の方式を採っている。直接飼育は、人間がゾウの領域に入り、直接しつけを施しケアを行う。準間接飼育では、動物との接点を最低限にして、互いの領域を確立し、これを守りながらケアを行う。例えば、直接飼育では寝床の掃除をする時は、何人体制で作業を行うかは別として、ゾウが側にいる状態で、飼育員が部屋に入って掃除していた。準間接飼育では、餌を与える場合、飼育員が運動場に餌を用意した後、そこへゾウを入れる。おそらく掃除は、ゾウが運動場へ出ている間に行うのだろう。
 両方の方式にメリットとデメリットがあるようだ。直接飼育では、飼育員は個々のゾウの健康状態などを理解し易く、細かいケアができる。頭の位置などでも分かるというから素晴らしい。ただし安全管理が難しい上に、誰でもできる訳ではない。動物と飼育員の信頼関係がなければできない。準間接飼育では、人間との接触は最低限にとどめることで動物の野生や独自の能力を維持させようと努力が続けられている(例:餌を探し見つける能力など)。また、人間側の安全も確保し易い。一方、準間接飼育を採り入れるには、施設を整える必要があるだろう。また、予防注射や採血、足のケアは欠かせないが、これらの作業はゾウに触れなければならない。全くしつけを行っていないゾウにこれを行うのは至難の業だと思う。人間が直接ゾウとふれあう環境では、シツケは安全を確保する上でも必要なのだ。
 直接飼育を採用している2人のうち1人は、インドでトレーニングを受けたそうだ。この方は明確に「人間の方がゾウより上の存在だ」ということをゾウに教え込んでいると言っていた。もう一人は、はっきり名言はしなかったけれど、ゾウの態度を見る限り、彼は少なくとも群れの一員とみなされている印象を受けた。親子のゾウ3匹がいる部屋で、この飼育員さんは独りで掃除していた。「触らないで」と言われたゾウ達は、その後彼の方に近づかず、一定の距離を保ち、時には後ろに下がって飼育員の作業を見守っていた。
 なお、準間接飼育方式で飼育されているゾウは、部屋の柵が人間の領域との境界になる。ゾウが柵から鼻を出していたら、それは自分から人間の領域に入っているということ。このような場合、ゾウは問題なく人間の指示に従うそうだ。誰に教えられたワケでもなく自然とそうなるらしい。ゾウと飼育員さんの間には、物理的な距離感もさることながら、精神的な距離感も培われているということか。
 (あ)は、複数のトレーナーさんから「ルーシーにかまいすぎ」「ルーシーの先手を打ち過ぎる」「ルーシーの顔色を見過ぎる」と言われている。だから「ルーシーは自分で考えない」「ワガママが出る」そうだ。
 (あ)はルーシーと上手く距離をとれていないんだろうなぁ。距離感。欲しいなぁ。
 そういや、よく寝ぼけて壁にもぶつかるしなぁ(笑)。