工事

 急遽、我が家に工事が入った。
 駐車場のフェンスが壊れ、玄関のドアも立て付けが悪くなった。夏に2部屋の電灯がつかなくなり、台所の換気扇も息も絶え絶えの状態。「あまりの暑さに電気配線がやられ、家全体が壊れていく」と恐怖を抱いた(あ)は、工務店の社長に泣きついた。部品を取り寄せてもらって、ようやく電気と駐車場と玄関の工事となった。
 多忙な工務店とスケジュールを急遽合わせるのはしかたないとして、一番困るのがルーシーのこと。普段来客の少ない環境に慣れているせいか、家族以外の人間が家に近づくと警戒して吠える。工事となれば、全く知らない人が始終出入りする。ルーシーが、かなり吠えることが予想された。予行演習も考えたけど、防犯上の理由から、知らない人に「自宅に来てください」と声をかける訳にもいかないわなぁ。
 社長からは「当日、8時半〜9時半に行く」と聞いていたので、それまでに1時間みっちり歩いてルーシーを疲れさせ、朝ごはんを済ませて寝かせようと考えていた。作業場所がリビングも入っているから、作業の進度によってサークルかクレートに入れて。
 ところが、8時過ぎに帰宅すると、すでに自宅前にはトラックが待っていた。職人さん2人が社長より先に到着した模様。
 まずはルーシーを彼らから遠ざけようと思った。しかし、相手が目の前にいるのに挨拶ナシで素通りというのは、社会人としてマズイ。
 こちらが迷っている間に、職人さんがトラックから下りてきた。予想どおり、ルーシーは吠えかかる。
 「お世話になります。すいませんが、先に犬を入れさせてください。」
 あわてて足を拭いて、ルーシーを玄関先のサークルに入れた。本犬は大興奮で、家の中から外にいる職人さんに向かって吠えまくる。2人で現場を見ながら作業の打ち合わせ。ワンワン吠えられる度に「ハイ、ハイ」と声をかける。
 この職人さんの担当は、駐車場のフェンスと玄関ドアだった。ルーシーにとっては、テリトリーの境界線。車に近づく者には警戒モード全開。職人さんは、自分から見えないところにいるのに(or見えないからこそ?)吠えまくる。
 (あ)は、工事手順の説明や細かいところの質問などで、屋外にいる職人さんから度々呼ばれたけれど、呼ばれて玄関を出入りする度に、ルーシーは吠えた。これじゃルーシーを落ち着かせることはできない。
 「こりゃ、本犬が吠え疲れるのを待つしかないか」と思っていたところ、社長と一緒に電気屋さんが登場。自分が外に出て「すいません。犬が吠えますんで気をつけてください」と、あらかじめ注意を促す。すると、電気屋さんは全く動じず、大きな段ボール箱を抱えて家に入った。
 ルーシーは、ひとしきり大声で吠えた・・・と思ったら、次の瞬間、サークルの隅っこで小さくなった。大きなダンボールがコワイらしく「ヤバイ、ヤバイ」と縮み上がっている。
 電気屋さんは、犬のことが良くお分かりの様子で、声もかけないし、目も合わさない。ルーシーの前を通り過ぎた瞬間に、相手を見ないで、静かな声で「なんだ、良い子じゃないの、静かだし」と仰る
 ルーシーの態度は、職人さんと電気屋さんでは全く違っていた。職人さんは家の中に入らないが、電気屋さんは家の中を行き来する。だけど、吠える相手は圧倒的に職人さん。電気屋さんはルーシーの前を何回も通ったけれど、ルーシーが電気屋さんに吠えることは少なかった。電気屋さんは、屋内での作業がメインだから、初めて会う犬への対処に慣れておられるのだろう。
 ちなみに、玄関ドアの側で、職人さんと社長が話し始めると、最初、ルーシーは吠えまくっていた。2人がドアを直し始めると静かになった。作業で忙しいから相手にされないことが分かったようだ。「寝てるのかしら?」と、リビングからそっと様子を覗いていると、働く2人の様子をじっと観察していた。
 すべての作業が終わったのは、ほぼ夕方。(あ)は、早朝からの片付けで体も疲れたし、ルーシーのことで気疲れしてしまった。一方、ルーシーは、昼寝をせずに見張っていたこともありグッタリ・モード。ヤレヤレである。
 次の工事は来年になるらしい。知らない人が家に来ることに、今回のことで、少しは慣れてくれたら良いんだけど。