善意のすれ違い

 ご近所に住む飼い主さんに、久しぶりに出会った。彼女は数カ月前に愛犬を亡くされていた。飼い主さんは、笑顔で「次の犬を飼おうと動き始めました」と仰った。前向きな言葉にほっとした。前のワンちゃんが夢の中に出てきたそうだ。ワンちゃんが落ち着いた様子だったので安心し、自分の背中を押してくれている気がしたそうだ。
 「ただね、主人は『大型犬はちょっと・・』って言うんですよね」
 前のワンちゃんは大型犬。動けなくなった時、犬を車に載せて病院へ連れて行くのが大変だったそうだ。新しい犬を迎えるにしても、いずれは介護が必要になる。その時がいつかは分からないけれど、今よりご自身やご主人は確実に体が弱っているだろうと仰る。新しい犬を幸せにしてあげたいし、最後まで責任をもってケアしたい。その一方で、自分達はそれができる状態でいられるのか?そう考えると、大型犬を迎えるのは難しいと言う。
 「かと言って、私自身、小型犬はねぇ・・・」ペットショップを覗いたり、保護団体のHPを見たりされているそうだけど、ピンとこないらしい。犬側のことを考えても、今まで飼育経験のある犬種が良いかもしれない。犬種固有の病気やケアのニーズなど知識があれば、健康管理はさらに行き届いたものになる。
 「子犬から育てるのも、ちょっと・・・」子犬のパワーに負けそうで自信がないらしい。
 ルーシーは、もう少ししたら『折り返し地点』という年齢。今は1匹でも持て余している状態だ。しかし、いなくなった時のことを考えなくもない。非常に漠然としているけれど、その時点で気力・体力・財力があれば、ボーダーの血を引く子を迎えられたらと考えている。ただし、現在の時点で、パピーや若い犬に対抗できる体力は残っていないし、そんな環境に迎えられた元気なボーダーも可哀想だと思う。だから、レスキュー団体から『折り返し地点』以上の年齢に達したボーダーコリーの成犬を迎えて、犬の生涯で残された時間を、のんびり私達と過ごしてくれれば良いなぁと考えている。まぁ、こちらの都合ばかりなんですけどね(笑)。
 「そうなのよねぇ〜。条件が合えば良いんだけどねぇ」
 条件もさることながら、保護犬の中には問題のある犬も少なくない。受け入れ側には、それに対応する努力も必要だから「余計に不安になる」と仰る。
 「保護団体のHPには、犬の譲渡条件が書いてあって、これが1匹1匹違うから、読んでいる間に嫌になっちゃうのよね」
 小型犬は屋内じゃないとダメとか、高齢者のいる家庭はダメとか。保護犬の行く末を考えた上で設定された条件なのだろうけど、これらの譲渡条件が、保護犬を迎え入れようと考えている人達にとって、二の足を踏む要因になっているようだ。そういえば、他の方達で「保護団体が確認のためと言って、家庭訪問をするのが嫌」「申込書に家の間取りまで書かされた」と不満を漏らすのを聞いたことがある。
 保護団体としては、送り出した犬が不幸になったり、戻されたりすることは一番避けたいはずだ。だから、団体の中には独自にシツケを施すところもあるし、多くの団体が、譲渡には、かなり厳しい条件を設定していると思う。あくまで保護犬一匹一匹が譲渡後も健康で幸せになることが優先事項なのだ。
 なお、「保護犬を迎えても良いな」と考える人は、可哀想な犬を幸せにしてあげたい気持ちがある。ただ――(あ)も含めて――意識のどこかで「選択権は自分にある」と思っている。だから、保護団体側から譲渡条件を突きつけられると当惑し、中には怒り出す人もいる。
 残念なのは、両方共「善意の持ち主」なのだ。善意がすれ違っているだけなのだ。このギャップをどうにか埋められないものだろうかと思う。そうすれば、生涯の第二章に踏み出せる保護犬が増える気がする。